「部落」地名判決 ネット時代の差別に警鐘

 インターネット全盛の中で深刻さを増す部落差別への警鐘とすべき司法判断である。

 全国の被差別部落の地名リストをネット上や出版物に掲載した神奈川県の出版社代表らに対し、東京地裁はリスト削除や損害賠償を命じた。判決は、被告側のネットなどを通じた公開が「公益目的でないことは明白」と断じ、被差別部落出身者でつくる部落解放同盟など原告側の主張を大筋で認めた。

 部落問題に限らず、差別に苦しみ、闘う当事者を無視した一方的な情報公開は断じてあってはならない。その意味で判決が佐賀、長崎両県などについて、関連の原告がいないといった理由からリストの削除を認めなかった点は理解しがたいが、全体としては妥当な判断だろう。

 問題の地名リストは、昭和初期の政府系機関の調査結果を被告らが復刻し、現在地を加えて2016年に公開した。

 解放同盟は「差別のばらまきだ」として抗議、削除を求めたが、被告は「研究や表現の自由」を主張して拒んでいた。

 判決は、地名公開により原告らは結婚や就職などで差別的な取り扱いを受ける恐れがあると認定した。

 注目すべきは、その被害の回復は「不可能ないし著しく困難」と踏み込んだ点だ。法務省が部落差別に関する人権侵犯として救済手続きを始める事案は年100件前後に上る。差別はなくなってはいないのだ。

 被差別部落の劣悪な住環境や雇用、教育を改善しようと、国が30年以上続けた事業は02年に終了した。その後、行政の人権啓発事業は女性や障害者などへ対象が広がった。歓迎すべきことだが、同時に部落問題は終わったという風潮が強まったのも事実だ。

 近年普及したネットの世界では、被差別部落の地名に関するやりとりが、何のためらいもないかのようになされている。とても看過できない。今回のリストも、人権侵害となる意味を理解しない若者が印刷し、ネット上に出品していた。

 部落差別は日本社会の歴史の中で生まれたいわれなき身分差別に始まる。その理不尽さに押しつぶされるように、自ら命を絶とうとする事例もある。

 若者層を中心に人権教育と啓発をより充実させたい。ネット上の誹謗(ひぼう)中傷やいじめも社会問題であり、ネット事業者による監視や削除は当然の責務だ。

 「かけがえのない個人の尊重」をうたう部落差別解消推進法の施行から5年になる。部落解放同盟などの前身である全国水平社が結成されて来年で100年の節目を迎える。人権問題の原点に立ち戻る契機としたい。

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