疑惑や不祥事を忘れさせ、期待値を上げた自民党の「うまい」やり方

 1年前に菅義偉首相を党首に選んだ自民党が看板をすげ替えた。迫る衆院選で戦える「顔」を模索、さまざまな思惑を加味した結果だ。事実上の新首相を選ぶ総裁選に注目が集まるのは自然な流れだが、それによって党のイメージは刷新され、「ご祝儀」による支持向上も期待できる。森友・加計(かけ)問題、政治とカネなど信頼を失墜させた不祥事を忘れさせる狙いがあった、との見方もある。

 勝つのは誰か―。29日の投開票は複数のテレビ局で生中継された。女性2人の立候補は例がなく、「長老」たちの言動も注目を浴びた。“政治ショー”に報道も熱を帯びた。

 「総裁選は、衆院選対策だった」。かつて党本部に約20年勤務した政治アナリストの伊藤惇夫氏はこう指摘する。今夏、内閣支持率は危険水域に陥った。若手を中心に広がった衆院選での落選へのおびえ。それが、菅首相では選挙に勝てないとの不安を増殖させ、「菅降ろし」につながったというのだ。

 多くの想定を上回る4人の立候補は大いに総裁選を盛り上げた。選択的夫婦別姓、女系天皇への賛否…。連日開催のオンライン討論会で交わされた論戦のテーマは、有意義なものもある。それは、山積する疑惑や不祥事の記憶を払拭(ふっしょく)させることにも役立った。伊藤氏はそう考える。「保守」の側面が強い党に別の印象を抱かせる効果もあった。

 熊本大の鈴木桂樹名誉教授(政治学)も今回の自民党の振る舞いや姿勢に注目。その印象については「うまい」と表現する。

 従来の看板で衆院選を戦った場合、「業績評価」で選ばれる。だが看板を替えた場合には「期待値」が選考の基準になりやすい。野党にとってはやりにくい。

 だからこそ、総裁選で訴えた政策が「党の衆院選公約にきちんと入っているかを見る必要がある」と強調。言いっ放しになっていないか、有権者が目くらましに遭っていないか、注意する必要がある、と言う。一方、派閥の様変わりなど変化も見た総裁選だったとも振り返った。

 菅首相が退任の意向を示した後、低迷していた内閣支持率は上昇した。伊藤氏は「日本人は過ぎたことは忘れやすく、去る人にエールを送る優しさがある」と分析。政治ショーを通じて感じたことは、それぞれが「直後に迫る衆院選で示せばいい」と述べた。

 (一瀬圭司)

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