「袋被せられ殴られた」中国当局の拷問や脅迫、香港民主活動家が証言

 【北京・坂本信博】英国に亡命中の香港の民主活動家で、香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で指名手配されている鄭文傑(サイモン・チェン)氏(30)が西日本新聞のオンライン取材に応じ、2019年に中国当局に拘束された際の取り調べの実態を明らかにした。食事や睡眠時間を十分与えられず、頭から袋をかぶせられて殴られるなど「拷問を受け、自白を強要された」という。

 香港の反政府抗議デモに参加していたチェン氏は19年8月、在香港英総領事館の職員として中国本土の広東省深セン市へ出張した際に突然拘束された。

 拘束理由は、身に覚えのない買春容疑だったが、英政府のデモへの関与やデモでの暴力行為、中国本土からのデモ参加者への金銭的支援、英総領事館の内部事情について連日、早朝から深夜まで尋問を受けた。

 尋問室では手錠をかけられ、目隠しをされたり、頭から袋をかぶせられたりしたまま長時間立たされた。「呼吸もよくできず、眠ってしまいそうになると棒のようなもので殴られた。留置場に戻ると、体中にあざができていた」と語る。

 家族や弁護士、英総領事館へ連絡を求めると「買春容疑で弁護士は呼べない。家族に知らせる義務もない。おまえは中国人で内政問題だから英総領事館への報告も不要だ」と一蹴された。

 留置場は初日だけ雑居房で15人ほどと同室だった。まもなく釈放されるという人に家族の電話番号を託して連絡を頼んだ。が、夜に取り調べが終わって房へ戻ると誰もが寝たふりをしていた。声をかけると「おまえと話すとここから出られなくなる」と言われ、翌日からは独房に移された。

 朝食はおかゆで昼や夜は米飯と豆腐が中心。尋問が夜まで続いて昼食抜きの日も多く、みるみる痩せていくのが自分でも分かった。

 徐々に不安定になる精神状態。拘束から2週間ほどたったある日、取調官に「外国の手先」とののしられ、どこで調べたか恋人の名前も挙げて「国家転覆罪でここから出られないようにしてやる」と脅された時、「心が壊れたようになって、泣きだしてしまった。それから洗脳工作が始まった」とチェン氏。

 「なぜ民主主義を信じるのか」「教育レベルが低い中国に民主主義を持ち込めば白黒が逆転し、カオスをもたらす」と説かれた。デモ参加者の写真を千枚以上見せられ、知っている顔があれば名前や職業、政治思想を書き込むように求められた。スマートフォンのロックも無理やり解除させられ、英総領事館のメールなどデータを引き出された。

 やがて目の前に2種類の「決定文」が置かれた。自白して15日間で釈放されるか、2年間拘束されて再教育を受けるか-の2択だった。ビデオカメラの前で、買春と、祖国を裏切ったこと、拷問は受けていないことを認め、釈放された。

 突然の拘束まで、チェン氏は民主化運動の著名なリーダーというわけではなかったが、人生が一変した。身の危険を感じて19年11月に渡英。昨年6月に英国政府が亡命を承認した。同じ月、香港で国安法が施行され、指名手配された。

 チェン氏は、メディアや講演を通じて香港問題を国際社会に伝える活動の一方、英国への脱出を望む香港人を支援する「英国港僑協会」を創設。メンタルヘルスや英語教育、就労支援などに当たる。香港の民主主義の種火を残すため、海外に移住した香港人が投票権を持つインターネット上の「影の議会」もつくった。

 「キャリアと安定した人生を奪われ、もう元には戻れない。家族や友人が忘れられない」。そう言って、チェン氏は自らに言い聞かせるように言葉を継いだ。「いつか必ず民主主義を香港に持ち帰る。子や孫の世代になったとしても」

〓は「つちへん」に「川」

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