鳥栖殺人、解剖遅れの背景は 佐賀大の体制手薄、県警「忖度」指摘も

 佐賀県鳥栖市で79歳の女性が殺害された事件では司法解剖の遅れが指摘され、解剖を担う佐賀大法医学の体制の手薄さが浮き彫りになった。佐賀県内で唯一の法医学教室がある同大は14年にわたって法医学の「教授不在」が続いており、司法解剖などに当たる常勤医師は准教授1人の体制が続く。法医学関係者からは「大学当局が体制拡充に本気で乗り出さない限り、根本的な問題解決はできない」との指摘が聞かれる。

 「私が知る限り、法医学教室のある全国の国立大でこれほど長期間、教室運営に責任を持つべき教授不在が続くのは佐賀だけ。その事実が、佐賀大の法医学軽視を象徴している。以前から大学や国に改善を促してきたのだが…」。日本法医学会の元理事長で、九州大大学院の池田典昭教授(法医学)は手厳しい。

 大学法医学教室は、主に地元で起きた犯罪死が疑われる遺体の解剖を担う。毒薬物検査なども行い、死因や死亡推定時刻を鑑定する。解剖の遅れは、犯罪捜査や死因究明の遅れを招き、地域社会のリスク要因になりかねない。

 鳥栖の事件では、頭から血を流した女性の死亡が確認されたのが9月10日の金曜。佐賀県警は、福岡県内3大学とも司法解剖の嘱託契約を結んでいるが、佐賀大と調整の結果、解剖は土日をまたいだ13日の月曜に決まったという。九州のある法医学教授は「解剖は早さが大原則。遅れれば遅れるほど、死後変化が進み、遺体から得られる情報量は少なくなる。待たされる遺族の負担にもなる」と語る。

 佐賀県警は今回、福岡県の大学に早期解剖を要請したのか-。佐賀県警は要請の有無について明言を避ける。だが、事情を知る複数の関係者は「土日でも要請があれば福岡の大学で実施できた。解剖していないということは、要請がなかったということだ」と口をそろえる。

 佐賀大では2007年末から1年ほど、解剖医がゼロだった歴史がある。その後、准教授が着任したが、多くの関係者が「土日は解剖医が地元におらず、解剖できないのが慣例になっている」と話す。

 鳥栖の事件で、佐賀県警は事件と事故の両面で捜査を始めたという。ならば、死因特定のため解剖を急ぐべきではなかったか。解剖が遅れた背景を、池田教授はこう推測する。「あの慣例があるから、県警としても土日の解剖を佐賀大に頼みにくい。一方で、簡単に福岡の大学に頼み、佐賀大側にへそを曲げられても困るという忖度(そんたく)が働いたとしか思えない」

 九州大が手掛ける遺体解剖は年間120~150体ほど。約2割が佐賀分だという。池田教授は「佐賀大法医学の問題は、人員の少なさだけが原因ではない。大分大も鹿児島大も教授1人でしっかりやっている。法医学を通じて地域社会に貢献するために、安定的・組織的な解剖体制をどうつくるか。大学当局の姿勢が問われている」と強調した。 (中島邦之、岩崎さやか)

佐賀県の天気予報

PR

PR