被災不明者氏名 公表し迅速救助につなげ

 内閣府が、災害時の安否不明者の氏名公表に向けて検討するよう都道府県に通知した。正確な情報に基づく一刻も早い救出作業が生死の明暗を分ける、との判断からだ。

 地球温暖化を背景に自然災害が多発している現実に即した要請と言えるだろう。自治体側は「人命第一」を原則に柔軟な対応策を検討してほしい。

 静岡県熱海市の大規模土砂災害は発生から3カ月となるが、生々しい映像が記憶に新しい。

 発生3日目の7月5日夜、県と市は住民基本台帳を基に連絡が取れない64人の名簿を公表した。報道などを通じて多くの情報が寄せられ、翌6日夜までに7割に当たる計44人の無事が確認できた。

 救助を待つ被災者の生存率が急激に下がる「72時間の壁」を重視した決断であり、評価したい。この災害を受け、静岡県は災害発生から48時間以内を目標にした氏名公表に向けて検討を始めた。

 不明者の情報は災害対策基本法に基づき、市町村が現地の自主防災組織などを通じて収集する。公にするかどうかは自治体の判断に委ねられるが、個人情報保護条例との兼ね合いからためらうケースが少なくない。

 ただ条例には、生命や身体の保護に必要な場合に本人同意なく第三者に提供できるという例外規定がある。内閣府はこの規定を適用するよう求めている。

 3年前の西日本豪雨で岡山県が氏名を公表したのは大雨特別警報が出て5日後だったが、生存者が次々に名乗り出た。

 新聞などで名前を見た本人や家族から「無事」と連絡が入れば、一刻を争う現場で捜索すべき範囲を絞ることができる。「どこの誰」が不明者なのか分からなければ、捜索は進まない。被災範囲が広域に及ぶ大規模災害なら、なおさらだ。

 全国知事会は6月、氏名公表の指針をまとめた。全都道府県に画一的対応は求めないとしながら、氏名公表には「公益性」があると指摘した。

 その上で、氏名を公表する場合の3類型として(1)原則公表(2)迅速な救助活動などに必要な場合(3)家族らの同意がある場合に限定-を示している。

 個人情報の保護が大切なのは当然のことだ。特に家庭内の暴力などを逃れて暮らす人たちの情報の扱いには細心の注意が必要である。重要なのは、公益性と個人情報保護のバランスを適切に判断することに尽きる。

 私たちが迅速な氏名公表を求めるのには、もう一つ理由がある。安否不明者や犠牲者は単に数字として表されるべきではなく、それぞれが名を持ち尊い人生を送る存在と考えるからだ。

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