「社会経験少ないのに人を裁いてよいのかな」高校生裁判員、目前に

 来年4月から裁判員に選ばれる年齢の下限が20歳から18歳に引き下げられ、裁きの場に高校生が加わる可能性がある。来春施行の改正民法で成人年齢が18歳に引き下がるためだ。最高裁は積極的な広報をしておらず、学校現場での課題も少なくない。専門家は「最高裁などには丁寧な説明が求められる」と指摘する。

 「えっ」。大城聡弁護士(東京)は9月下旬、たまたま目にした最高裁のホームページの一節にくぎ付けになった。裁判員の年齢引き下げについてQ&A方式で<18歳以上になると聞きましたが本当ですか><本当です>と紹介。裁判員経験者らと定期的に交流する大城弁護士でさえ「初耳」。制度に詳しい法曹関係者に尋ねても「聞いたことがない」と口をそろえた。

 改正民法や裁判員法は引き下げについて触れておらず、5月に改正された少年法の付則で規定された。実際に18、19歳が選ばれるのは2023年1月からとなる。

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 「社会経験が少ないのに人を裁いてよいのかな」。高校1年の女子生徒(15)=福岡市=は戸惑う。早生まれで、18歳になる高3の1月から選任される可能性がある。「初めて知りました。普通裁判所は行かないし、みんな戸惑うと思う」

 最高裁によると、裁判員裁判の平均実審理期間は12・1日(20年)。裁判員法は学業を理由にした辞退を認めているため、受験や就職活動を控える高3が辞退することはできる。女子生徒も「学校を休むには勇気がいると思う」と話す。

 裁判員に参加する場合は、学校は欠席扱いになるのか。文部科学省は「生徒の個別事情であり、学校長の判断で決まる」。会社のように「裁判員休暇」を設けるのかなど学校に通達を出す予定はないという。

 裁判員に参加すると、授業に遅れるケースも出てくる。福岡県内の高校教諭は「補習などで勉強の遅れを取り戻すのは難しい」と明かす。学校現場に余裕はなく、フォローは考えにくいという。

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 裁判員制度について中学の公民の授業で一度習ったきりという女子生徒。過去に福岡地裁での模擬裁判に参加するなど「司法への意識は高い方」。それでも、守秘義務や、審理で証拠に触れた場合の心理的負担が気掛かりという。

 制度に詳しい牧野茂弁護士(東京)は「高校生の判断でも被告の一生を左右する。法教育の充実が不可欠だ」と強調する。

 最高裁は現在、引き下げについて前述のQ&Aでしか取り上げておらず、「制度に対する関心を高め、不安解消を図れるような広報をさらに積極的に行う」と回答。今後パンフレットを作成するという。飯考行・専修大教授(法社会学)は「もっと社会的に議論を深めるべき案件。市民の理解あっての裁判員制度で最高裁や法務省の姿勢が問われる」と話した。 (一瀬圭司)

 裁判員制度 市民がプロの裁判官と共に刑事事件を審理する制度で、2009年に始まった。殺人や強盗致傷、覚醒剤取締法違反など比較的重い事件が対象。候補者は無作為に選ばれ、仕事や病気を理由に辞退が認められている。辞退率は09年53・1%から20年66・3%と増えており、制度への関心が薄まっているとの指摘がある。最高裁による20年の経験者アンケートでは9割超が「良い経験」と回答した。

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