岸田新政権発足 「聞く力」の真価問われる

 異例の形での新政権発足だろう。自民党新総裁の岸田文雄氏がきのう、第100代首相に就任した。その直前に次期衆院選の投開票を今月31日とすることを決め、就任10日後の14日に衆院を解散するという。

 自民党総裁選に対抗する形で野党も公約を示してきた。事実上、選挙戦に突入したかのような状況だが、投票までの時間は想定以上に短くなった。まずは論戦の軸となる岸田内閣の政策を具体的に示してもらいたい。

■目指す国家像を語れ

 総裁選で岸田氏が強調していた言葉に「分配」がある。

 安倍晋三政権以来の経済政策アベノミクスは株価上昇などの効果を生んだ一方、非正規雇用増加や可処分所得の伸び悩みといった格差問題も顕著にした。

 岸田氏はアベノミクスを踏襲しながらも、中間層の拡大に向けて、子育て世帯の教育費や住居費の支援などを強化する「令和版所得倍増計画」を政権の目玉に位置付ける。

 喫緊の課題には新型コロナ対策もある。感染「第6波」への備えを急ぐとともに、経済再生に早速手腕を問われる。

 組閣に当たっても経済への配慮が目立つ。関係閣僚に政策通とされる若手を積極起用したほか、経済安全保障の担当相も新設した。先端技術などでの中国の台頭を念頭に米国が強化を急いでいる分野であり、新政権の性格の一端を表すものだろう。

 総裁選で岸田氏は数十兆円規模の経済対策の必要性を掲げながら「消費税は10年上げない」とも述べた。財政規律はいかに保つのか、説明を求めたい。

 初入閣の多さも際立ち、閣僚20人中13人に達する。衆院当選3回の若手も3人起用した。「岸田カラー」の発揮に腐心していることがうかがえる。

 気になるのはコロナ対策を担う3閣僚全員を交代した点だ。切れ目ない対策に支障が出ないよう十分配慮すべきだ。

 臨時国会では野党が求めた予算委員会も開かれそうにない。衆院選の有権者の判断材料として所信表明演説代表質問で、政権の方向性や目指す国家像を丁寧に語ってもらいたい。

■「負の遺産」に決着を

 菅義偉前政権はコロナ対策を理由とした野党の臨時国会召集の要求に結局応じなかった。野党の質問に正面から答えず、憲法に基づく要求さえ軽んじる。安倍政権以来の国会軽視の姿勢は目に余るものがある。

 岸田氏は総裁選を通じ「国民の声が政治に届かず、政治の説明が国民に響かない。わが国の民主主義そのものが危機にある」と語ってきた。同感である。肝心なのは、その危機をどう克服するのかを示すことだ。

 党や内閣の人事では、安倍氏や麻生太郎前財務相に近い甘利明氏を幹事長に起用するなど有力者への配慮もにじむ。総裁選の功労者の重用も目立つ。

 ただ甘利氏は現金授受問題で2016年に経済再生担当相を辞任した経緯があり、新政権もまた「政治とカネ」の問題を抱え込むことになった。

 また総裁選のさなかに自民党は19年の参院選広島選挙区の買収事件に関し、党が提供した1億5千万円は買収資金でなかったとの陣営側の報告を公表し、これを追認する方針を示した。にわかには容認できない。

 菅政権が短命に終わった要因には、安倍政権からの「負の遺産」に決着をつけられなかったこともあるはずだ。

 甘利氏は野党が求める現金授受問題での国会招致を拒否するとともに、1億5千万円問題の再調査も拒んでいる。

 政権交代に乗じて、いくら幕引きを図ろうとも、国民の疑念が解消されない限り、問題は尾を引き続ける。

 岸田氏は特技という「聞く力」で国民の声に謙虚に耳を澄ませてもらいたい。衆院選の論戦はその真価を問う場となろう。

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