「核なき世界」に触れた岸田首相の所信表明 それでも失望の声が上がる理由

 被爆地出身議員として初の首相となった岸田文雄氏は8日の所信表明演説で、「核なき世界」に取り組む決意を強調した。菅義偉前首相は所信表明演説でこの問題にまったく触れておらず、歴代でも言及した首相はわずか。独自の岸田カラーを打ち出した格好ではあるが、内容は従来の政府見解を踏襲したにすぎないとの指摘も。首相の本気度を関係者はどう見るか―。

 臨時国会と特別国会で行われる所信表明演説は、1月の通常国会冒頭で内閣全体の基本方針を示す施政方針演説よりも首相の個人的な考えが反映されやすいとされる。オバマ元米大統領がプラハで「核兵器のない世界」を提唱した2009年4月以降、所信表明演説で「核軍縮」「核不拡散」に触れた例はあっても「核兵器のない世界」に言及したのは2回のみ。鳩山由紀夫氏(09年10月)はプラハ演説直後、安倍晋三氏(16年9月)はオバマ氏の広島訪問直後だった。

 「被爆地出身の総理大臣として、私が目指すのは『核兵器のない世界』です」

 首相は、約7千字のうち約160字を使って、自身が「ライフワーク」とする核軍縮への積極性を印象づけようとした。

 ただ、長崎大核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授は「一言でまとめれば失望」と手厳しい。続く「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします」との一文は「歴代首相の見解とまったく変わらない」からだ。鈴木氏は「問題に取り組む意欲を示していただけに演説内容の薄さは残念。評価できるのは核兵器廃絶に触れたという点だけだ」と話した。

 被爆者で長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長は「核兵器禁止条約に一言くらい触れると思っていた」と不満をあらわにした。政府は核禁止条約への批准は否定しているが、来年に初開催される締約国会議へのオブザーバー参加は検討中との立場。「参加の意思を表明するのではと期待していたが…。安倍氏、菅氏との違いがまったく見えなかった」

 日米関係に詳しい拓殖大海外事情研究所の川上高司教授は「核軍縮を巡る国際情勢は、核軍備を増強する中国への対応が大きな課題となっている」と指摘。「首相の強いメッセージを感じたが、米中の対立が予想される今は対応が難しい時期だ」と状況を案じた。

 自民党関係者は「総裁選でも保守層への配慮が目立った。意欲は示せても、踏み込んだ行動は難しい」と党内での首相の立ち位置を解説してみせた。

(森井徹)

関連記事

長崎県の天気予報

PR

PR