ノーベル平和賞 圧政追及する報道の価値

 平和と民主的な社会を築くには表現の自由が不可欠であり、それを守る努力を怠ってはならない。そうした警告である。

 今年のノーベル平和賞は強権的な自国の政権を厳しく追及してきたロシアとフィリピンの報道関係者に贈られる。危険を顧みずに真実を追い、言論の自由を貫く闘いが評価された。

 ロシアのドミトリー・ムラトフ氏は独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」編集長を務める。同紙は汚職や捜査機関の暴力といったプーチン政権の不正を告発してきた。脅迫を受け続け、6人の記者が殺害されながらも政権監視の姿勢は揺らがない。

 フィリピンのマリア・レッサ氏はニュースサイト「ラップラー」を設立し、麻薬取り締まりで容疑者殺害も容認するドゥテルテ政権の権力乱用を批判してきた。ソーシャルメディアが偽情報拡散に利用される危険も訴え続けている。

 ジャーナリストへの平和賞授賞は、第1次大戦後のドイツの再軍備を暴き、ナチス政権の圧政にあらがったカール・フォン・オシエツキー氏以来となる。

 ノーベル賞委員会は今回の2人を「理想のために立ち上がった全てのジャーナリストの代表」とたたえた。強権支配が広がり、自由な報道や意見の表明が脅かされる危機的状況は両国だけにとどまらないからだ。

 香港では香港国家安全維持法の施行で言論統制が強まり、中国の習近平指導部に批判的な新聞が廃刊に追い込まれた。ミャンマーは2月の軍事クーデター以降、抗議デモの参加者が国軍に多数殺害されている。

 民主主義を掲げる国でも政権の意に沿わぬ報道を虚偽と決めつけ、圧迫する政治家の言動が後を絶たない。典型は米国のトランプ前大統領だ。根拠も示さず昨年の大統領選に「不正があった」と強弁し続ける。

 日本も例外ではあるまい。菅義偉前首相が日本学術会議の会員候補6人の任命を拒否した問題で、その理由は説明されないままだ。6人はいずれも政府の方針や法案に異を唱えたことがあり、任命拒否は批判封じの圧力と受け止められている。

 民主主義は対話による合意形成が肝要だ。為政者が批判に耳を傾けず、政権維持のため不都合な事実を隠すような行為は許されない。理不尽な権力行使を正すために奮起せよ-。今年の平和賞選定には、報道に携わる全ての者に向けたそんなメッセージが込められていよう。

 手軽に情報を発信できる時代だ。飛び交う情報の真偽を見極める力が重要となる。私たちも責任の重さをかみしめ、権力におもねることなく「真実」を伝える努力を続けたい。

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