リスク見極め、広がる分散避難 本紙あな特アンケート詳報 

 8月に九州を襲った停滞前線豪雨の際、自治体が避難指示を発令した地域の住民は、どんな避難行動を取ったのか。本紙「あなたの特命取材班」と無料通信アプリLINE(ライン)でつながる「あな特通信員」にアンケートを行ったところ、大半は「自宅にとどまった」と回答した(4日付朝刊1面既報)。無作為抽出の統計調査ではないものの、この結果をどう捉えたらよいのか考えた。

 アンケート結果からは、「自宅にとどまった」人の2割近くが指定避難所に行かなかった理由に、新型コロナウイルス感染への不安を挙げた。各自治体は受け入れ数を絞り、避難所内のレイアウトも密集を防ぐ工夫をしているが、避ける向きがあるようだ。

 東京大大学院の松尾一郎客員教授(防災行動学)が、今年5月に行った全国調査でも回答者2747人のうち711人(26%)は避難所を選ばなかった。最大の理由は4割を占めた「感染の恐れ」だった。

 一方、アンケートでは「自宅にとどまった」人のほぼ半数が、ハザードマップや気象情報に基づき判断したという。コロナの影響も併せてリスクを見極め、在宅を含む避難所以外を選ぶ「分散避難」が広がっているように見える。

 4年連続で市街地が浸水被害に遭った福岡県久留米市。40代の男性はこの夏、小学5年の息子の自由研究で、災害時のわが家の行動計画「マイタイムライン」を一緒に作ったという。「どんな情報に注目すべきか、避難はどのタイミングで決断すべきかなど十分検討でき、垂直避難(屋内の上階などへの移動)が最適と判断した」と声を寄せた。

 同県筑後市の80代女性は「家は少し高台にあるので雨の時は動かないが、台風の時は近くのホテルに避難する」と回答。ある市の防災責任者は「避難行動の実態は正確に把握できていないが、大雨の予報が出ると市内のホテルが満員になる。分散避難が広がっていると感じている」と話す。

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 ただ、回答者の1割超は、自身や身内が病気だったり、介護が不可欠だったりなどの理由で、やむを得ず自宅にとどまった。

 長崎県の70代男性は「家族に障害者がおり、事前に避難するにしても車で行かざるを得ないが、避難所の駐車スペースに限界がある」と説明。福岡市の40代女性は「車がなく、避難所まで徒歩20分かかる。子連れで雨の中の移動は恐怖で、自宅が安全かもと避難を思いとどまってしまう」。

 他にも「小さな子を含めて子どもが4人いて、避難所で静かにさせるのは至難の業」「ぜんそくなので避難先で発作が出ると困る」「愛犬がいるので行けない」といったコメントも。

 過去に性暴力被害に遭ったことがある女性は、地域内に住む加害者と避難所で遭遇しないかと考えると恐ろしく「女性専用の避難所が欲しい」と訴えた。

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 避難指示の出し方についても意見が寄せられた。

 気象台の発表する注意報や警報を踏まえ、各自治体が住民に避難行動を促すために発令するのが「高齢者等避難」や「避難指示」、最も危険度が高い場合の「緊急安全確保」。今年5月から「避難勧告」を廃止し、「避難指示」に一本化。アンケートでは、8割が一本化について「知っていた」と答えた。

 「一本化され、離れて暮らす親類や知人の身の危険性も心配する目安になった」(福岡市の40代女性)と受け止める人がいた一方、「いまだに分かりにくい。平易な言葉で『逃げろ!』とか、もっと明解に表現して」(同市の50代女性)との注文も。

 目に付いたのは「避難指示の範囲が広過ぎる」との投稿だ。「地域の一部に山間地が含まれているだけで、すぐ発令されてあまり役に立たない」という。「福岡市は校区単位で出るので、自分の校区の周辺まで危険が迫っているのかなど情報収集でき、気持ち的に準備ができる」との意見があり、自治体間でばらつきがあるとみられる。

 防災関係者の中には「以前の勧告と指示を、それぞれ指示と緊急安全確保に読み替えて運用している自治体もあるようだ」と指摘する声もある。気象台の大雨特別警報は市町村単位で発表されるため、自治体が機械的に全域に「緊急安全確保」を出すと、首をかしげる住民もいるとみられる。

 さらに「自治体が地区ごとに避難指示を出しても、報道は細かく伝えていない。情報のミスマッチが、どうせ何事もなく済むだろうというバイアスを生じさせてしまうのではないか」(北九州市の40代男性)との問題提起もあった。報道機関の一員として、しっかりと受け止めたい。

 アンケートを通じ、「避難指示の一本化」が浸透し、単に避難行動=避難所に行くことではないとの認識も染み渡っているように感じた。もちろん、避難情報が適切に運用されなければ「過剰」と受け止められるのも事実だ。 (特別編集委員・長谷川彰)

 ※アンケートは9月24~26日に実施。8月の大雨の際に気象台が大雨特別警報を出した福岡、佐賀、長崎3県の「あな特通信員」約8500人のうち、655人が回答した。自治体が避難指示を発令した地域に住む人は379人(58%)。このうち332人(88%)が「自宅にとどまった」と答えた。アンケートは、多様な方々の声を聞き取るのが目的で、無作為抽出で民意を把握する世論調査とは異なる。

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