東京五輪、選手は「主役」であれたか 運動部・伊藤瀬里加

 15日から新聞週間。今、伝えるべきことは何か。紙面で、インターネットで、どう発信していくか。悩みながら、走りながら地域に、社会に向き合う記者たちが思いをつづります。

 「キング」と呼ばれる選手の心の叫びに聞こえた。昨年11月に東京で開催された体操の国際大会。「(東京五輪が)『できない』ではなく、『どうやったらできるか』を考えて、どうにか(開催)できるように。そういう方向に変えてほしい」。閉会式のスピーチで内村航平選手(32)が観客や関係者に訴えた。

 内村選手が声を上げた当時、コロナ禍で2020年から1年延期された東京五輪の再延期や中止を望む声が8割を超える調査もあった。16年リオデジャネイロ五輪で個人総合を2連覇した後、けがに苦しみながら東京五輪を目指してきた姿をずっと見てきた。内村選手だけではなく、4年に1度のスポーツの祭典に向けてさまざまな犠牲を払って取り組んできた選手たちを取材してきただけに、開催可否についての質問をすることには胸が痛んだ。

 そんなとき、内村選手が「開催」を口にした。医療従事者などへの十分な配慮がなされることを前提としたスピーチではあっても、ネットなどでの反応は賛否両論。過激な発言も目にした。突出した実績を誇る選手が、非難を覚悟で選手たちの気持ちを代弁したように思えた。

 その後も開幕直前まで中止論が渦巻いた。選手団や関係者へのワクチン接種、無観客開催といった節目の決定も、選手たちの気持ちはどこか置いてけぼりのような気がした。アスリートファースト(選手第一)―。延期が決まるまで嫌というほど耳にした言葉だ。コロナ禍の五輪が人命最優先で語られるべきなのは間違いないが、本来は主役であるはずの選手が「当事者」になっていないのではと感じたことが多かった。ある競技の監督は「(記者の)皆さんと同じ程度の情報しか持ち合わせていない」と戸惑っていた。

 運動部の記者は、試合や練習にできる限り足を運び、選手や指導者から強さの秘密や競技に懸ける思いを直接聞いて発信できるのがやりがいだ。なのに、五輪を目前にしながらコロナ禍で取材もままならない。質問も制限されるなど、もどかしい思いも抱えた。一方で会員制交流サイト(SNS)などを通じて積極的に発信する選手もおり、私たちの存在意義について自問自答することもあった。

 開幕後は日本史上最多58個のメダル獲得に沸き、新聞も連日大きく報じた。選手たちのひたむきな姿に勇気づけられた人もいるだろう。やはり開催への疑問が拭えず「テレビも見なかった」という人もいる。社会の中でスポーツの果たす役割は何なのか。選手にとっても、私たちにとっても考えさせられる五輪だった。

 いとう・せりか 福岡県宗像市出身、2008年入社。東京支社運動部で五輪競技を取材し、今夏から本社運動部でプロ野球ソフトバンク担当。36歳。

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