「20議席減なら御の字だ」守りの自民、不安要素は岸田首相の「ぶれ」?

 衆院は14日解散され、選挙戦の火ぶたが事実上切られた。自民党は就任10日間、いわば試運転中の岸田文雄首相の下、解散時の276議席をいかに減らさないかの「守り」に腐心する。投開票日まで17日間という超短期決戦は、失言一つで風向きが一変しかねない不確実さもはらむ。

 「生き生きと生活できる社会をつくれるのはどの政権か。国民に選んでいただきたい」。午後7時、解散を受けた記者会見に臨んだ首相はまっすぐ前を見据え、こう強調した。だがその後、選挙の勝敗ラインの見解を問われると従来通り、「(公明党との)与党で過半数を確保する」。233議席の過半数は、解散時議席を考えると甘めのハードルと言わざるを得ない。よほどの大敗を喫しない限り責任論が降って湧かないよう、予防線を張った形だ。

 首相に近しい党幹部の間には「20議席減で踏みとどまれば、御の字だ」との見方が強い。安倍晋三、菅義偉の両政権が新型コロナウイルス対応で苦戦し、国民の間に蓄積されていった不満や鬱憤(うっぷん)は簡単には拭い去れないと覚悟しているからだ。この日、甘利明幹事長は記者団に「国全体を一つにまとめて、進むべき方向を指し示していく」と前置きした上で、首相が掲げる「成長も分配も」の経済対策を長々と開陳。有権者に、「過去」のコロナ対策の答え合わせより「未来」をより意識付けたいとの思惑もにじんだ。

 今回の衆院選。首相は、意表を突いて日程を「1週間前倒し」する奇襲を仕掛けた。新内閣の刷新感が鮮やかなうちに雌雄を決することで「議席が増える可能性だってゼロではない」(周辺)との楽観論もあったが、現実には支持率は当て込んだほど回復せず。党内の中堅・若手には落胆が広がり、首相は衆院選の公約づくりに際し、総裁選で訴えた主張の角を丸める方向に修正の手を加え始めた。

 特に、金融市場から「岸田ショック」と称されて拒否反応を招いた金融所得への課税強化は先送りに。持論の格差是正を実現する具体策を臆面もなく封印した「ぶれ」に対し、臨時国会では早くも野党から追及の矢が注がれた。

 1998年参院選の最終盤で、当時の橋本龍太郎首相が発した「恒久減税」。2010年の参院選直前、当時の菅直人首相による「消費税率引き上げ」。税にまつわる不用意な発言は、その時々の与党の鬼門となりかねない。自民党幹部は「ほんのひと言で流れが変わる。心して臨まなければ」。ただでさえ、今回は党が解散直前に実施した情勢調査でも「自民支持率の高さほどには(当選を見込める議席数が)ついてきていない」とされる。

 「自由民主主義の思想で運営される政権と、共産主義が初めて入ってくる政権との政権選択選挙だ」。甘利氏が14日、カメラの前で何回も繰り返した強い言葉だ。むき出しになった野党への対抗心の裏側には、小さくない危機感が潜んでいる。

(河合仁志)

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