夢の学生生活、ひとりぼっちの現実 「人と会うことが怖い」今も

 冷蔵庫に残っていたのは1本のキュウリ。久留米工業大2年の比嘉聡太さん(19)は昨年5月、無料通信アプリLINE(ライン)でメッセージを送った。

 「食費に使えるお金が千円きっています。少量でもなにか貰(もら)えたら嬉(うれ)しいです」(原文のまま)

 送信先は、学内メールで知った福岡県久留米市の学生支援団体。新型コロナウイルスの感染拡大で困窮した学生たちに食材を配っていた。

 沖縄から進学したばかり。アルバイトは見つからず、奨学金もまだ入らない。建設系の自営業の実家も仕事が減り、余裕はない。「親に心配は掛けたくなかった」

 新種のウイルスはあっという間に世界を混乱の渦に巻き込んだ。当時、日本でも初めて「緊急事態宣言」が出ていた。誰もが不安を感じる状況。ごく普通の大学生だった比嘉さんは、見知らぬ土地で独りだった。入学式はもちろんなく、あらゆる学内行事は中止になった。講義はオンラインばかり。憧れのキャンパスに一度も足を踏み入れることなく夏が来た。「自分は一体、どこに向かっているんだろう」。思い描いた生活から程遠い現実に、押しつぶされそうになる。

 昨夏、全国大学生協連(東京)が行ったアンケートでは、自身と同じ大学1年生の27・7%が「大学での新しい友達はゼロ」と回答。1年後の調査でも「友人とつながれていない」「自分の居場所がない」と答えた人数は、他学年に比べて多かった。

 昨年の自殺者数は11年ぶりに前年を上回り、増加傾向は若い世代に顕著だ。過去にもスペイン風邪が流行した20世紀初頭のアメリカ、重症急性呼吸器症候群(SARS)が猛威を振るった03年の香港で自殺者数が増えたとの指摘がある。

 支援団体などとのつながりや、その後見つかったアルバイトで少しずつ生活を立て直せた比嘉さん。「人と会うことが怖い」という同世代の知人は、今も病院や学内の相談機関にも足を運べずにいる。いわゆる「コロナうつ」だとみられ、心配でならない。

 今年2月、省庁横断で取り組みを進めるとの触れ込みで新設された「孤独・孤立対策担当大臣」。世界初で孤独担当相を置いた英国と協力推進で合意し、18歳以下の相談窓口を紹介するウェブサイトを設けた。「あなたは一人じゃない」。岸田内閣が発足して10日以上たった15日夕現在、前任の担当相が呼び掛けるホームページは更新されず、本気度が問われている。

 「コロナ世代」-。心や体が成長し、社会との関わりを学ぶ大切な時期をウイルスとともに生きる若者はこう呼ばれる。困窮者が利用できる制度は確かにある。知人がそうであるように、「声を上げられない人はまだまだいる」と比嘉さんは憂える。社会の片隅で苦しい人たちの思いに、政治は向き合ってほしい。

 (梅沢平)

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