【私の視点】コロナ対応、リーダーは真摯な姿勢を 作家・河合香織が求める資質

ノンフィクション作家 河合香織さん

 日本が新型コロナウイルス禍に見舞われて1年半余。専門家たちの議論と葛藤を描いた著書「分水嶺(ぶんすいれい) ドキュメント コロナ対策専門家会議」(岩波書店)を世に出した。コロナに翻弄(ほんろう)され、幕を閉じた安倍、菅両政権をどう見るか。

 「未知の感染症に関する専門知を見極められない政治に問題がありました。当時の西村康稔経済再生担当相と尾身茂分科会長は連日議論を重ねましたが、政策決定者である首相は『専門家のご意見を聞いて』と繰り返す割には、重要局面で専門家と腹を割って対話する機会が少なかった」

 東京五輪開催や観客数を巡り、正式に議論する場は持たれなかった。専門家は「無観客が望ましい」とする独自提言を出した。

 「その直後に大会組織委員会や政府による5者協議で『上限1万人まで』が打ち出されました。結果的に無観客になったとはいえ、データに基づく提言を受け入れないなら、どこを採用してどこを採用しないのかを説明すべきでしょう」

 こうした連携不足が国民への矛盾したメッセージとなった点は否めない。

 「例えばロックダウン(都市封鎖)についても、菅前首相は記者会見で『日本にはなじまない』と述べ、同席した尾身氏は『当然議論はあり得る』と食い違った。専門家と政府の意見が違うのは当たり前だが、事前にコミュニケーションを取り、すり合わせはできたはず」

 政府と地方自治体の連携に課題も。4月16日時点で分科会が感染状況に警告を発していた福岡県は、まん延防止等重点措置を飛び越えて5月12日から緊急事態宣言発効に至った。

 「それは自治を尊重しない態度。自治体の要請を受けて毎日専門家を集めて基本的対処方針分科会を開き、国会で手続きを踏むのは現実的ではないから、地元の意見を聞き、速やかに反映できる仕組みがあれば早期収束につながっていく。宣言や重点措置が出されることを報道で知った首長もいたのは問題だった」

 菅前首相の伝わらない説明が批判の的だった。リーダーに必要な資質は。

 「その場しのぎの発言をせず、間違いや分からないことは認めて良いと思う。真摯(しんし)な姿勢はきっと伝わる。納得いく説明と対話があれば人々も自粛に協力してくれるはず。ただし、政治も行政も専門家も間違うことはあるので、国民が許容することも必要。絶対に間違いを許さない風潮だと隠そうとしませんか。子どもだってテストで100点じゃないと絶対駄目だよと言えば、隠しますよね」

 ワクチンの普及などでコロナ対応は新たな段階に入った。政権は経済と感染防止の両立をさらに模索していくことになる。

 「安倍、菅両政権はあまり反省と振り返りをしなかった。完璧でなくていいので速やかに検証を実行すること。大事なのは医療逼迫(ひっぱく)を防ぐことですが、予兆は必ずつかめるはず。対策が間違っていたら、予兆をつかんだ時点で機動的に方向修正をすればいい。ウイルスと相対するにはトライアンドエラーをしながら、やっていくしかない」 (聞き手・前田倫之)

 かわい・かおり 1974年生まれ。著作に「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」「セックスボランティア」など。

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