【私の視点】脱炭素、政府がぶれれば民間は動けない

動画サイトで脱炭素化を訴える元外交官 前田雄大さん

 気候変動への対策から世界的に「脱炭素化」が進んでいる。外交官として世界を見てきた視点で日本の現状をどう考えるか。

 「産業革命以降、経済成長するとエネルギーも多く使い二酸化炭素(CO2)排出量が増えるという相関関係がありました。だから、気候変動対策が必要な『正論』は分かっていても、経済成長を犠牲にできないのでずっとうまくいかなかった。ところが、技術が進んで2010年代半ばから再生可能エネルギーの太陽光や風力のコストが下がった。正論な上に経済性があるなら、やらないわけないじゃん、と世界の流れが変わりました。その中で旧来の世界観を引きずって置いていかれたのが日本です」

 なぜ日本は出遅れたのか。

 「ひとつは国土が狭いという課題があります。広大な土地に太陽光パネルを敷き詰めるようなことができないので、他国に比べてコストが下がりにくかった。さらに、政策の失敗も大きい。大手企業が投資している火力発電を守る視点に縛られ、経済産業省も世界と競争する意識で再生エネを支援しなかった。政府内で世界の潮流を説明してもなかなか理解されず、もっと広く発信しなければいけないという危機感が、脱炭素について動画サイトで分かりやすく発信する今の活動につながっています」

 菅義偉政権は50年の温室効果ガス排出実質ゼロを掲げ、ようやく脱炭素化に大きくかじを切った。これから日本は巻き返せるか。

 「まだ巻き返す力は残っていると思います。例えば蓄電池では、車載用電池で『3強』と呼ばれるメーカーの一角にパナソニックが入っています。太陽光では薄いフィルム状電池の技術に可能性がある。洋上風力でも、浮体式の技術は世界をけん引できるでしょう」

 一方、岸田文雄政権に代わり、脱炭素化の先行きを不安視する声もある。

 「菅政権が掲げた方針があるので慣性の法則で進むとは思いますが、加速はしないでしょう。岸田さんの取り巻きは古い考え方が多い印象です。調整力は高いかもしれませんが、今必要なのは、和を壊してでも突き進む力だと思います」

 求められる政策は。

 「世界の脱炭素の流れは官主導ではなく、民間から出ているうねりをてこに各国が覇権争いをしているのが現状です。日本も民間を動かすしかない。一番大切なのは政策がぶれないこと。国の方向性が定まらないと、民間は投資ができません」

 「脱炭素電源」として位置付けられる原発についてはどう考えたらいいか。

 「再生エネが主力電源になるまでの移行期は、温室効果ガス削減のために原発の稼働は避けては通れないと思います。ただ、長期で依存していい電源なのか。東京電力福島第1原発の汚染水問題にも関わりましたが、事故が起きたときの影響の大きさと比べると、原発の期待値は明らかに見合わない。しっかり検証して、国民が再度考えるべき問題だと思います」

 (聞き手・石田剛)

 まえだ・ゆうだい 1984年生まれ。外務省で気候変動問題などに携わり、2020年に退職。脱炭素を解説する動画配信を続けている。関連の動画投稿サイトアドレス

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