「明日はないかも」の覚悟で 劇団四季「キャッツ」金本泰潤さん語る

 福岡市で公演中の劇団四季ミュージカル「キャッツ」(西日本新聞社など主催)は、2022年4月17日に千秋楽を迎えることが決まった。新型コロナウイルス禍の自粛要請でエンタメ業界が壊滅的打撃を受ける中、感染を厳重警戒しながらロングラン公演を担う俳優たちの重圧は大きい。長期の公演中止も経験した今、彼らは何を思い舞台に立っているのか。出演する金本泰潤さんに話を聞いた。(聞き手・山本孝子)

 -役どころはストーリーテラー、「マンカストラップ」というリーダーネコですね。

 金本 物語を進めていく役で、舞台の真ん中に立って目立つからこそ、他のネコをどう見せられるのかが大事だと思っています。他がいい芝居をしても僕がへたっていたら、そのシーンは死んじゃうので気を付けています。

 -仲間のネコにふっと見せる優しさみたいなものを感じさせる演技です。

 金本 他の先輩が演じると「俺についてこい」って感じですが、僕がやるとしっくりこなくて。「僕が話を進めるから自由にやってくれ」みたいな、みんなの軸というか、安心感を持ってもらえたらいいなと思います。

金本さん演じるマンカストラップ(撮影・下坂敦俊)

 -7月に開幕し、公演中に緊急事態宣言も出ましたが、どのような生活を?

 金本 うがい、手洗いをして、あまり外には出ないです。(仲間と)あまり接触しないようにしているので、楽屋くらいでしか会いません。楽屋の鏡台にも仕切り板があって、寂しい感じです。

 -福岡での長期滞在は初めてとか。

 金本 きれいなところと、ちょっと雑多なところがある街の雰囲気がすごく好き。豚骨ラーメンが大好きで、食べに行きました。あと、ひとりもつ鍋とか。焼き鳥の鶏皮は初めてデリバリーで食べました。

コロナ自粛、体と心を整えた

 -稽古でもマスクをしていることが多いとか。

 金本 高地トレーニングってこんな感じかなってくらい、かなりしんどいです。最初はマスクを取るのも怖くて、ふらっと倒れちゃう人もいたみたいです。でも息が上がらなくなって、汗もかかなくなった。思わぬ収穫ですね。

 -2020年は劇団の公演の約半分が中止。稽古も一時はオンラインだったそうですね。

 金本 舞台に立てなかったのは5カ月くらい。それで懸垂スタンドを買いまして。腕立て伏せと腹筋をやって、食べるだけ食べて、体重を10キロくらい増やしました。コロナ前は(舞台が)ハードで食べられず、やればやるだけ痩せていく感じで、結構ガリガリだったんですよ。

 -伸びやかな歌声が魅力です。自粛期間中の歌のトレーニングは?

 金本 自宅が角部屋なので、一番端の小部屋でドアを閉めて歌っていました。チャレンジしたい役の歌やポップス系です。

 音域は3オクターブ半くらい。高音は出るけど、軽く出すのが苦手。舞台で体を動かして歌うと、へとへとになります。今のボーカルの人たちは高音を軽く出す。効率良く、野生動物のような、ミニマムの力でマックスのパフォーマンスをすることに気づきました。

 -他に意識の変化はありましたか。

 金本 みんなすごく歌えるし動けるし、その中にリーダーとして放り込まれてあっぷあっぷしていたので、落ち着ける期間になりました。

 気持ちは前向きでした。この休みの過ごし方で差がつくだろうなって。(それまでは)公演でくったくたで、泥のように眠っていましたが、ドラマや映画も見てインプットしました。

再開、カーテンコールに感無量

 -社会にはエンタメ自体を自粛してくれという空気もありましたが、どう考えていましたか。

 金本 社会が元気だからこそ見に来てもらえるんだと実感しました。でも本当は、落ち込んでいる時にこそ舞台を見て「明日からも頑張って生きよう」と思ってもらいたい。それができない矛盾。何でこの仕事があるんだろう、何でこの仕事をやってるんだろうと、結構考えました。みんな生きることに精いっぱいで、僕らもそうでした。

 -数カ月後に再開された舞台に立った時、どのような気持ちでしたか?

 金本 デビューした時と同じ、ライオンキングのエド役でした。カーテンコールで温かい大拍手をもらって、あー戻って来たって感じでした。やってて良かったなあって。ずっと見に来られなくて抑圧されていた皆さんのエネルギーと、お互いぶつかっている感じが心地よく、感無量でした。

 -コロナ禍の前と表現することは変わりましたか。

 金本 物語を届けるということだけ。でも、誰かが感染したら明日はないかもしれないという状態で、覚悟というか、常に何かを突きつけられているように感じます。今日これで終わって悔いはないか、と問いながら立っています。

 舞台は人が集まらないとできない、コロナ禍最大の弱点を持っているエンターテインメント。無観客ライブも行われていますが、生の良さは配信じゃ味わえない。弱点でリスクだけど、その良さを再認識しましたね。

自分を投影しながら楽しんで

 -「キャッツ」には2019年から出演していますが、今だからこそ伝えたいことは?

 金本 この作品にはいろいろな軸があって、例えば「グリザベラ」というネコには、皆が「娼婦(しょうふ)」というレッテルを貼って拒絶しているけど、善か悪かを決めているのは社会。(現実社会にも)コロナウイルスに感染した人を、悪人だ、というような時期もあった。これは「キャッツ」に似てるなあって思いました。自分もコロナ禍で殺気立っていないかと顧みました。

 ネコに人間社会を投影している作品なので、時代によって見方が変わる。見るたびに違う。自分の人生を顧みながら見てもらえると、また面白いんじゃないかなと思います。

 この作品は、観客に何も押しつけない。「こう生きろ」とは絶対言わない。「ネコはこうやって生きてますけど、あなたはいかがですか?」と投げ掛けるだけ。その余裕を楽しんでいただければ。

 -観客に「いかがですか?」と問い掛けるとすれば何を?

 金本 (俳優たちが)みんな苦労して、思い悩んで、時には泣いて、悔しくて…でも誇りを持ってやっているのは、いかがです? 「俺の仲間どうだ」と思いながら舞台に立っています。観客の皆さんと、言葉のないキャッチボールが生まれたら幸せですね。(本文敬称略)

 かねもと・たいじゅん 大阪府出身。2015年劇団四季オーディション合格。16年「ライオンキング」のエド役で初舞台。主な出演作品は「嵐の中の子どもたち」(ジェロニモ)、「ノートルダムの鐘」(カジモド)など。

 劇団四季「キャッツ」 2022年4月17日まで、福岡市博多区住吉のキャナルシティ劇場。S席1万1000円、A席8800円、B席6600円(いずれも平日昼・土曜夜)など。現在1月30日分まで販売、2月以降分は11月13日に一般発売。劇団四季=(0570)008110。

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