「学校で性を語ろう」 田代美江子教授に聞く ジェンダーや人権 「包括的性教育」推進を

 日本の性教育をめぐる歴史や課題について埼玉大の田代美江子教授(ジェンダー教育学)に聞いた。

 -現状をどう見るか。

 日本では早期の性教育は「寝た子を起こす」という考えが根強い。実際、学習指導要領には中学1年では「妊娠の経過」つまり「性交」については取り扱わないとする規定が今もある。

 海外の研究で、早くから十分な性教育を受けた子どもほど初交年齢は遅くなる傾向があり、危険性の高い性行為にも慎重になることが証明されている。「寝た子を起こす」論は科学的に否定されている。

 -日本の性教育を巡る議論はなぜ進まないか。

 日本の性教育は終戦直後、「純潔教育」として始まった。戦後の「性の乱れ」をただすため「純潔」という規範を前提にした道徳教育だ。日本の性教育はいまだそれを乗り越えられていない。文部科学省が「性教育」という言葉を避け続けていることからも分かる。

 2000年代には「性教育バッシング」が起きた。03年に都立の養護学校(当時)が実施する性教育を不適切だとして都議が批判し、訴訟に発展した。18年にも東京・足立区の中学校で行われた性の授業を都議が批判し論争となった。性教育について踏み込めば、たたかれる。学校現場は完全に萎縮してしまっている。

 -国が推進する「生命の安全教育」をどう評価するか。

 日本の性教育が変わる機会にはなり得るが、内容はあまりにも課題が多い。

 一つは「脅しの教育」になっている点。本来、性とは人間の生活を豊かにし、幸せにつながるものだ。だが教材は「距離感」という言葉を繰り返し、会員制交流サイト(SNS)の危険性を前面に打ち出すことで性に近づくことの危険性だけを強調している。子どもが成長するにつれて自然に抱く性的な欲求にも対応していない。「してはいけない」と押しつけることは子どもが自分で考え、納得して行動する力を奪う。

 異性愛者のみを想定している点も多様性に欠ける。

 -どのような性教育が求められるか。

 妊娠、出産、避妊などの知識にとどまらず、性の多様性を含むジェンダー(社会的性差)平等など人権を学ぶ「包括的性教育」だ。

 手がかりになるのは世界の優れた性教育の実践研究に基づいて開発された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」だ。5歳以上を年齢別に4グループに分け、人間関係や価値観、ジェンダー平等、暴力と安全確保、性と生殖などについて教える。

 -東京の公立中で長く教員とともに包括的性教育の実践に取り組んでいる。

 中1の最初の授業ではニヤニヤしていた生徒たちが、授業を積み重ねると変わっていく。中3で避妊や中絶を教える時には性交や避妊具の話を皆、真剣に落ち着いて聴いている。

 -学校に必要なことは。

 先生が公に性を語る経験は極めて重要だ。性が恥ずかしいもの、口に出してはいけないものではなくなるからだ。大人が性を語らないのに「信頼できる大人に相談して」と言っても子どもは誰も相談しない。大事なのは子どもがさまざまな情報や支えを得ながら自分で納得して選択すること。自分の体のどこを、誰に触らせるかは自分が考え、決める。その訓練の延長線上に性的接触や性交がある。

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