中国にらむ防衛「最前線」奄美に強いられる覚悟 【選択2021衆院選】

 鹿児島・奄美大島の海は青く輝いていた。亜熱帯植物が茂る山間部の道路沿いには黒や茶色の小豆ほどの大きさの固形物。「アマミノクロウサギのふんです」。歴史と自然を生かして黒米づくりなどに取り組む城村(じょうむら)典文さん(68)が説明する。今夏、島は多様で固有性の高い生態系が評価され世界自然遺産に登録された。

 その島の南部に、約3年前に山を開くなどして設けられた陸上自衛隊瀬戸内分屯地。侵攻を企てる洋上の勢力を撃破するための地対艦ミサイルが並ぶ。島には、城村さんのように「ふさわしくない」と考える反対と、賛成が混在している。

 九州の南方から奄美を経て、沖縄県の与那国島に至る島々は自衛隊の区分で「南西地域」と呼ばれる。過去10年間に陸・海・空の部隊や施設が次々と増強され、1万人が配置された。元陸将の山口昇国際大教授は言う。「長く防衛の空白地帯だった。今や最前線だ」

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 「オリエント・シールド」。東アジアの脅威に備えて1982年に始まった日米共同訓練の名称だ。今年6、7月に日本各地であった訓練には最多の3千人が参加し、奄美には在沖縄米陸軍・地対空誘導弾パトリオット(PAC3)部隊が展開した。南西地域において、この部隊が沖縄本島以外で投入されるのは初めてだった。

 背景にあるのは中国の強大化。米国と並ぶ超大国となった中国は、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ海上ライン「第1列島線」を防衛線として、台湾の武力統一を視野に挑発を繰り返す。

 欧州各国も警戒を強める。陸自と米海兵隊、仏陸軍は5月に霧島演習場(鹿児島、宮崎両県)で訓練を実施、9月には英海軍最新鋭空母クイーン・エリザベスが日本に初めて寄港した。政府の2021年版外交青書は「日本を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念」と強い表現で現状に危機感を示す。

 自民党は防衛力の大幅な強化を衆院選の公約に掲げ、対国内総生産(GDP)1%以内を目安とする防衛費について「2%以上も念頭に」とする。敵基地攻撃能力の保有にも前向きだ。

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 米中二つの超大国や各国の視線が集まる最前線との「自覚」が、奄美にはあるのか-。駐屯地に近い奄美市名瀬大熊町の町内会長で陸自OBの畑秀義さん(68)は「安心感は増している」と話す。市税収は2億円増え、総事業費10億円の食肉センター整備には国の補助が付く。朝の交差点では陸自隊員有志が子どもたちの通学を見守る。

 防衛は国の「専管事項」とされる。国民一人一人の意見が反映されるものではない、との理屈も理解できる。だがひとたび軍事衝突が起きれば、国民の生命や暮らしに及ぼす影響は計り知れない。ある防衛関係者は「全国民の命が守れるわけではない」と明かす。

 米軍による空襲、統治時代を知る女性(88)は「部隊があれば狙われる」と不安を口にする。地元に「覚悟」を強いる防衛力の配備に、十分な説明、理解、納得が不可欠なのは、言うまでもない。

 (高田佳典)

 4年ぶりとなる衆院選が31日に投開票される。歴代最長の安倍政権から菅、岸田政権へ。「1強政治」は私たちの暮らしや地域をどう変えたのか。九州各地の現場から課題を見つめる。

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