核軍縮外交 前に進める戦略競い合え

 世界の核軍縮が停滞し、私たちは核の脅威にさらされたままだ。唯一の戦争被爆国である日本は現状を動かす戦略をどう描くべきなのか。今回の衆院選はそれを論じる機会でもある。

 被爆地広島が選挙区である岸田文雄首相の誕生は「核なき世界」実現への追い風になる。そんな期待が被爆者や平和運動に取り組む人々の間に出てきた。

 当面の焦点は、今年1月に発効した核兵器禁止条約に対する日本の対応だ。

 核禁条約は核廃絶を希求する被爆者らの声を土台に核兵器を全面的に違法と定める。既に56カ国・地域が批准している。

 安倍晋三、菅義偉両政権は核保有国と非保有国の「橋渡し役」を掲げながら、この条約には一貫して背を向けてきた。米国の核抑止力に依存する安全保障政策と矛盾する上、核保有国が拒絶している点を重視し「現実的ではない」と考えるからだ。

 来年3月には条約に基づく第1回締約国会議が開かれる。衆院選後の政権にとって早速判断を迫られるのが、この会議へのオブザーバー参加だ。条約を批准していない国に認められた制度で、被爆者らが首相に参加を決断してほしいと訴えている。

 核軍縮をライフワークと公言する岸田氏は「大変重要」と条約の意義を認めるが、核保有国の関与が必要だと強調し、オブザーバー参加には消極的だ。

 米国でもバイデン政権の誕生で「核なき世界」実現を望む声が盛り上がりつつある。岸田氏は米国にどう働き掛けて核軍縮に導くか、道筋を示すべきだろう。ところが総裁として率いる自民党の公約は条約に触れていない。指導力も問われよう。

 与党の公明党をはじめ主要政党はおおむね将来の条約批准を見据え、オブザーバー参加を公約に盛り込む。被爆者援助などで蓄積がある日本の貢献が見込め、何より被爆者の切なる思いを重視するからだろう。各党はその先の展望も示すべきだ。

 この4年間、自公政権は米国との同盟関係と防衛力の強化を図ってきた。それでも中国は核戦力を増強し、それを警戒する米国とロシアの核削減は進まない。北朝鮮も非核化に応じる気配が見えない。

 「核なき世界」を目指すには核保有国へ軍縮を促す努力はもちろん、非保有国との協力が欠かせない。来年1月には核保有国が加わる核拡散防止条約(NPT)再検討会議も予定され、重要な国際会議が相次ぐ。

 核兵器の恐怖をじかに知る日本が核廃絶という理想に向けどう国際世論を導くか。停滞から脱する論戦を展開してほしい。

関連記事

PR

PR