【私の視点】少子化対策は〝大連立〟で 近道はジェンダー平等の推進

過去の史料から日本の人口の歴史をひもとく 上智大名誉教授 鬼頭宏さん

 昨年生まれた子どもの数は約84万人まで減り、女性が生涯に生む子どもの数を示す合計特殊出生率も1・34まで下がった。日本の人口はどうなってしまうのか。

 「分かりやすいのは政府が2014年に閣議決定した長期ビジョンです。将来推計人口では、2110年には4286万人まで減少することになっています。ですが、徐々に合計特殊出生率を上げることに成功し、2040年に人口を維持できる水準である2・07を達成できれば、21世紀の終わりには9千万人程度で横ばいになると推計されています。現状を考えれば実現は容易ではない。達成時期が5年ずれるごとに、将来の人口は約300万人減っていく計算になっています」

 少子化の理由は。

 「実は1974年に、日本は少子化を目指す政策を打ち出していました。旧厚生省の諮問機関は、当時の人口白書の中で『出生抑制に努力する』と書いています。背景には、73年のオイルショックがありました。

世界的に資源の枯渇が懸念される中で、人口が増加していくことに対する危機感が、人々の意識に影響を与えたのは間違いありません。問題は、想定を超えるスピードで合計特殊出生率が下がってしまったことです。経済的な要因が大きかったと思います。70年代には高度経済成長から安定成長に移り、90年代初頭にはバブルが崩壊。非正規の増加など雇用環境が不安定化する一方、大学進学率は上がりました。収入減と教育費などの支出増という将来への不安が、出生抑制に輪をかけました」

 合計特殊出生率は75年には2を割り、その後も下落が続いた。なぜ対応できなかったのか。

 「少子化を目指す政策からの方向転換が遅れたからです。政府は、89年に合計特殊出生率が1・57に急落し少子化が社会問題になってから、ようやく動き始めました。育児休業法が成立したのは91年です」

 若い世代が感じる不安要因が多い中、人口減少に歯止めをかけられるのか。

 「これをやれば必ず効くという政策はありません。ただ、世界経済フォーラムが示すジェンダーギャップ指数が高く、男女平等に近い国ほど、合計特殊出生率は高くなっています。日本の指数は156カ国のうち120位で、先進国の中で最低レベル。特に、政治や経済の分野で男女平等の立ち遅れが目立ちます。また、日本のように男性優位で権威主義的な家族観が残る国で少子化が進んでいるとの研究もある。ジェンダー平等の推進は人口減を止める近道と言えます」

 どんな時に人口は減り、増えるのか。

 「長い歴史を見れば文明やシステムの転換期に人口は減退期に入り、その後、再び増加しています。成熟した社会でも、経済成長だけではない豊かさへの価値の転換や持続可能な開発の実現などが進めば、出生率は再び上がりうる。大前提として、社会が子育ての価値を認めること、男性が積極的に育児に関わること、そのための働き方を企業が保障することが重要です。新型コロナウイルスの出現でデジタル化やテレワークが進み、NTTのように、単身赴任や転勤の廃止を検討する企業が出てきたことの意味は大きい。与野党は一時しのぎの現金給付を競うのではなく、新時代の社会の在り方を踏まえた少子化対策に“大連立”で取り組むべきです」 (聞き手・久知邦)

 きとう・ひろし 1947年生まれ。専門は歴史人口学で、過去の史料から日本の人口の変遷をひもといてきた。静岡県男女共同参画会議の委員長も務める。

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