118億…「地方創生」は漁業の島を救ったか【選択2021衆院選】

 マスク越しに言葉を交わし、漁具や食料などを船に積み込む。10月上旬、長崎県の離島、新上五島町の奈良尾港。東シナ海での巻き網漁に向け、乗組員が集まった。

 日本人に交じり、インドネシア人が4人。地元漁協は2019年から、外国人技能実習生を受け入れる。倉庫を改修した寮で、インドネシアから来た10~20代の27人が暮らす。

 このまま人口減が進めば40年までに全国で半分の自治体が消滅する可能性がある-。元総務相が座長を務める民間機関のリポートが列島に衝撃を与えたのは14年。その根拠となる若年女性人口(20~39歳)の予測減少率が、九州で最も高いのが新上五島町だった。

 「オチャです。一口飲みましょうか」。セン・ランさん(28)が、白髪の女性に優しく声を掛ける。町内の養護老人ホーム「朝海荘」。ミャンマー人の技能実習生2人が働く。運営法人は2年前から、東南アジアで人材探しに乗り出した。町の基幹産業や介護の現場を外国人が下支えする。

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 「『消滅』で危機感をあおられた」。石田信明町長(67)は民間リポートが発表されたとき、町の課長だった。当時の安倍晋三政権は「地方創生」を掲げ、担当大臣を置いた。国は自治体に人口減対策の総合戦略を作らせ、具体化のために交付金を配った。

 町は15年から5年間で海外観光客向けのPR動画や温泉施設建設、婚活イベントなど関連事業に約118億円を投じた。移住者が約420人増えるなど成果の一方で、町民の流出に歯止めがかからない。世界遺産の天主堂などがあることから新たな基幹産業に位置付ける観光もコロナ禍で急ブレーキがかかった。

 高校を卒業すると9割は島を出る。町の人口はこの7年間で3千人減り、約1万8千人。高齢化率は7%上昇し、42・5%に達する。

 地方創生が掲げた柱の一つは東京一極集中の是正。だが、15~20年の都道府県別の人口増減率をみると、増加のトップは東京で、10~15年よりも増加率はアップした。全国1719市町村の8割以上で人口が減った。

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 福岡県糸島市の海辺で、田島旭さん(34)がパソコンの画面越しに、東京の会社員に問い掛けた。「最近調子どうですか」

 人間関係の相談に乗る「メンタルコーチ」としてフリーランスで働く。コロナの感染拡大まで、顧客が多い首都圏に住むことが絶対条件だと思っていたが、「対話」はオンライン化。「どこでも仕事できる」。自然と食が豊かで、福岡市・天神まで電車で30分。知人から評判を聞いた糸島市が浮かんだ。9月下旬、埼玉県から移り住んだ。

 コロナ禍を機に生まれた「職と住」の価値観の変化。東京一極集中の人の流れは変わるのか。

 まちづくり専門家の木下斉さん(39)は「若い人が魅力を感じやすい都市近郊に、より人が集まっていく可能性もある」と指摘する。

 「コロナ禍移住」「都心から約1時間」…。日本全体のパイが減る中で、情報サイトでは今日も、全国各地の市区町村が「人口」を奪い合う。 (川口安子)

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