世界狙う農産物に明暗、「1兆円超え」視野も…【選択2021衆院選】

 有明海に面する熊本県玉名市横島町。ここでイチゴを栽培する農業法人「イチゴラス」のハウスで10月中旬、社長の森川竜典さん(34)らが苗から古い葉を取り除く「葉かき」に汗を流していた。冬から始まる出荷に向け、実へ養分を行き渡らせ、病害を防ぐ作業だ。1株ずつ丁寧に手を入れながら、森川さんは「日本の農産物の味と品質は世界で勝てる」と力を込めた。

 イチゴラスが主に栽培するのは1パック2千~3千円の高級白イチゴ「淡雪」。2015年に輸出を始め、香港やタイ、シンガポール、米国やアラブ首長国連邦(UAE)などに販路を広げる。「国内は人口減で先細り。富裕層の市場を開拓するため、海外に打って出た」(森川さん)。

 昨シーズンは収穫した約30トンのうち10トンを輸出。新型コロナウイルス禍で国内向けは前年比4割減となったが、輸出は米国での引き合いが強く、2倍に増えた。森川さんは「もし輸出がなかったら…と思うとぞっとする」と話す。

 政府は食品も含めた農林水産物の輸出額を30年に5兆円に引き上げる目標を掲げる。菅義偉前首相が、官房長官時代から注力した政策だ。今年上半期(1~6月)は、前年同期比30%増の5407億円と過去最高。年間で初の1兆円超えが視野に入る。

 イチゴラスは昨年から農林水産省の「グローバル産地づくり推進事業」に採択された。輸出先での市場調査や英語版ホームページ作成などで国から支援を受ける。今後は生産規模の拡大を図りつつ、輸出比率を5割まで高める方針だ。

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 10月上旬。福岡県糸島市のコメ農家井田磯和さん(58)の田んぼでは黄金色の稲穂が実っていた。だが、出来秋を迎えても井田さんの表情は厳しい。

 「昨年は不作で、今年は米価の下落。我慢の年が続くな」

 コメの需要は、コロナ禍前から年10万トンペースで減少基調が続く。そこに、外食需要の急減による在庫の増加が追い打ちをかけた。

 農水省によると、21年産の新米が出回り始めた9月の出荷業者と卸売業者の相対取引価格は、全銘柄平均で60キロ当たり1万3255円。前年同月比で12%下落した。福岡県産「元気つくし」も8%減、大分県産「つや姫」も6%減となるなど、九州産も安値傾向だ。

 米価下落は消費者にはメリットだが、農家には打撃となる。そもそも、コロナ前から肥料などの値上がりが農家経営を圧迫していた。父と息子の3人で、コメ28ヘクタールと大麦・小麦31ヘクタールを栽培する井田さんの農業法人も、給与や経費を除くと「利益はほとんど残らない」という。井田さんは「米価が下がったら国が責任を持って最低限の補償をしてもらいたい」と訴える。

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 コメを巡っては、需要減に伴って補助金で飼料用米などへの転作を誘導し、減産して価格下落を防ぐ「縮小均衡」が続く。農水省OBで、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「事実上の減反による価格維持は、もう限界がきている」と指摘する。

 20年産の主食用米の生産量は723万トン。直近のピークの08年産(866万トン)から16%減少した。コロナ禍による需要減でさらに転作を進めた21年産は700万トンまで減る見通しだ。

 国は輸出拡大にも力を入れるが、20年のコメの輸出量は2万トン弱と生産量の0・3%にとどまる。日本のコメは海外でも高く評価されている半面、海外と比べ高水準の米価が壁になる。

 「減反を完全にやめて、米価が下がれば輸出が増え、生産量ももっと増やせる」。山下氏はこう提言するが、衆院選で与野党ともに重きを置くのは足元の米価維持策。農協などの強い反発が予想されるコメ行政の抜本的な改革には及び腰だ。

 (前田淳)

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