DVから3人の子と逃れ…身寄りなく家計ぎりぎり「保護命令なぜ出ない」

 新型コロナウイルスの感染が広がったこの間、ドメスティックバイオレンス(DV)に苦しんだ人は多い。国の調査では、昨年度の相談件数は速報値で19万30件となり、前の年度から1・6倍に増えた。失業や収入減、外出自粛などのストレスが心ない行為に結び付いたとみられる。夫の暴力を機に、幼い子ども3人と家を出た30代女性の経験から、当事者が抱える課題を考えたい。

 「殺してやる」。女性は今春、夫に首を絞められ、突き飛ばされた。夫はコロナ禍で仕事が見つからず、今後を話し合ううちに手を上げられた。家具を投げつけられそうにもなった。

 なんとかなだめ、いったんパートに出勤。その後に子ども3人を連れて家を出た。パートは辞めた。

 頼れる身寄りはいない。友人宅や旅館にしばらく滞在。現金は尽き、クレジットカードが頼りになった。

 DV被害者用のシェルターに入ることを考えたが、公設は多くの場合、加害者の追跡を避けるため携帯電話が預かられ、外出も禁止される。子どものストレスを考えると抵抗があった。

 先を考えると収入を得たい。パートとともに続けていたフリーランスの仕事は電話やインターネットが使えないとできない。比較的自由の利く民営シェルターで数週間を過ごした。

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 困ったのはやはりお金のこと。母子家庭などを対象にした公的な母子生活支援施設に入れば出費を抑えられるが、自宅に客を招いて美容サービスを提供する仕事も以前からしており、続けていきたい。施設ではできないため入所は諦めた。

 新たに住居を借りるのにかかった費用は約40万円。他に家財道具もそろえ、すぐにカードの利用限度額に達した。コロナの影響で仕事もうまくいかない。子どもの保険を解約して返戻金を生活費に回し、コロナ対策で内容が拡充された社会福祉協議会の貸付金の手続きをした。

 その後、しばらくして心の調子を崩した。医師の診断では暴力のショックが原因。「文字は読めるけど、内容が全く頭に入らなくなった」。男性と向き合うと怖くて汗が噴き出し、仕事に手が付かなくなった。

 6月以降の収入はほぼゼロ。困窮する人の家賃を補助する制度に申し込んだ。コロナのまん延を受け、利用対象が広がっているのに助けられた。

 「お金の面は、コロナでいろんな制度が使えたのがよかった。もしコロナ禍じゃなかったら…。本当にたまたまだった」

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 女性は離婚を望むが、成立していない。民法上は夫に生活費を請求できるものの、支払いは一度もない。夫が共通の友人や会員制交流サイト(SNS)をたどって、自分と子どもの居場所を捜しているのも怖い。

 そこで、裁判所に保護命令を出してもらおうと考えた。申し立てが認められれば夫に接近禁止命令などが出される。ひとり親世帯が主な対象となる児童扶養手当も、命令があれば例外的に受給できる。

 裁判所に相談すると「日常的な暴力がないと認められませんよ」。女性は今回、行政からDV被害の証明書を発行されていた。暴力で首の骨がずれたことを示す診断書もある。警察に被害届も出した。日常的に暴言などの精神的暴力も受けていたが、裁判所の対応は変わらなかった。1人で子ども3人を育てているのに、離婚していないため児童扶養手当は受給できない。

 「どうして保護命令が出ないのか分からない。児童扶養手当も、今はほぼ母子家庭なんだから出してほしい。そうすれば私のように実家がなくてDV被害を受けた人も生活できる」。女性は訴える。 (編集委員・河野賢治)

 保護命令 配偶者や生活の拠点をともにする交際相手からの暴力を防ぐため、被害者からの申し立てにより、裁判所が加害者につきまといなどの行為を禁じる命令。暴行や脅迫を受け、今後も生命や身体に危害を受ける恐れが大きいと申し立てができる。命令は(1)被害者への接近禁止(2)被害者への電話などの禁止(3)被害者と同居する子どもへの接近禁止(4)被害者の親族などへの接近禁止(5)被害者とともに生活の拠点としている住居からの退去-に分けられる。命令に違反すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科される。

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