自民の議席減 民意の重みを受け止めよ

 第49回衆院選がきのう投開票され、多くの小選挙区で接戦となった末に、民意は自公政権の継続を選択したが、自民党は公示前から議席を減らした。就任から一月足らずの岸田文雄首相は起用したばかりの甘利明幹事長や若宮健嗣万博相が小選挙区で敗北するなど痛手を負った。

 岸田氏は苦戦を強いられ、ようやく民意の信任を得たことにはなる。それでも、これまでの「1強」政権下で見られた強引な国会対応をはじめとする独断的手法に、有権者がブレーキをかけたと受け止めるべきだ。

 躍進した日本維新の会など野党側への配慮は欠かせず、国会運営はこれまで以上の緊張感が求められる。安倍晋三元首相の経済政策アベノミクスに伴う格差の解消など選挙戦で焦点となった課題への取り組みで実績を示すしかない。

■首相の発言にぶれも

 本来この選挙で審判を受けるべきは、前回選挙後も3年近く「1強政治」を続けた安倍政権とその後継の菅義偉政権だったはずだ。

 9月初めに菅氏が突如、自民党総裁選への不出馬を表明したことで状況は一変した。政権党内の「疑似政権交代」で選挙直前に「党の顔」が差し替えられた。この異例の展開こそ、今回選挙の最大の特徴となった。

 岸田氏が戦後最短の短期決戦に打って出たのも、首相交代による「ご祝儀」効果があり、新型コロナの感染が再拡大しないうちにとの狙いは透けて見える。

 しかし、「1強政治」の当事者が表舞台から退いてなお、東京都議選や横浜市長選で吹き荒れた自民党への逆風は完全に収まってはいなかったことが今回の苦戦からうかがえる。「政治とカネ」の問題に代表される長期政権のおごりや新型コロナ対策の不手際に対する不信や不満は、有権者の記憶に残っていたとみられる。

 岸田氏自身も、森友学園問題の再調査に関する発言がトーンダウンするなど、総裁選から衆院選にかけてぶれも目立った。

 総裁選で掲げていた目玉政策がいくつも姿を消しただけでなく、外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」改定や敵基地攻撃能力の検討に前向きになり、党内ではハト派と目されてきた軸足に変化も生じた。背景に安倍氏ら党内保守派への配慮が見え隠れすることも、今後の政権運営の足かせになりかねない。

■異論にも耳を傾けよ

 最大野党の立憲民主党は、2012年に旧民主党政権が下野してから初めて総定数の過半数の候補者を擁立し、「政権選択選挙」の構図に持ち込んだ。

 注目されたのは、衆院選で初めて共産を含む4党で候補者一本化を軸とする共闘を実現させたことだ。多くの小選挙区で接戦を展開したが、競り負けるケースも相次ぎ、政権の担い手という評価には遠かったと言わざるを得ない。

 対照的に日本維新の会は議席を3倍以上増やした。与党とも野党共闘とも線を引いた「第三極」として、投票先を探しあぐねていた無党派層の一定の受け皿となったということだろう。

 立民など4党は、与党側が批判したように安保政策が異なる党同士の共闘が有権者にどう受け止められたのか、しっかりと分析、検証する必要がある。

 来夏には参院選が控えており、各党は息つく間もなく選挙準備へ走り始めることになる。

 経済格差や少子高齢化、財政健全化、近隣外交など、この国の課題は枚挙にいとまがない。新型コロナの新規感染は落ち着いているとはいえ、医療提供体制の充実や経済・社会活動の再開支援は、岸田政権が逃げることは許されない大きな課題である。

 衆院選の遊説で岸田氏は国民の声を書き留めたというノートを掲げ、「聞く力」をアピールしていた。これから試されるのは首相としての「実行力」と、今回自民党に投票しなかった有権者の異論にも耳を傾ける「包容力」である。

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