「転換ルール」で無期雇用移行も…月給変わらず12万円 肩落とす53歳

 決められた雇用期間で働く有期契約労働者が、5年を超えて勤務すれば、期間の定めのない無期契約に移行できる「無期転換ルール」。労働契約法改正で2013年に導入され、雇い止めの解消につながる一方、賃金などは「非正規時代」と変わらない状況が生じている。法律は待遇の引き上げまでは求めていないためで、働き手のメリットは雇用継続だけに限られ、生活苦や老後の不安は残ったままだ。

 「給料は時給が何年かで12円、上がっただけ。もっと良くなると思ったのに」

 佐賀県の男性(53)は肩を落とす。仕事は倉庫で注文品を集めて箱に入れるピッキング作業。勤務先と1年ごとに雇用契約を更新し、16年間働いてきた。

 ルール導入に合わせて無期契約になったが、待遇はほぼ変わらない。月給は手取り約12万円。賞与は2万円台の支給が年2回。「ボーナスの時期は憂鬱(ゆううつ)になる。こんなはした金かって」

 仕事内容が正社員と違うのは分かっていても、経験を評価してほしい思いもある。重労働のため仕事を掛け持ちする気にはなれず、転職もかなわなかった。

 独身で70代後半の両親と3人暮らし。これから介護が必要になると思うと不安になる。「自分も親も年を取っていく。なんとかしないと、と思うけど…」

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 国は無期転換ルールを導入する際、円滑に進めるため企業向けのハンドブックを作成した。その中で、有期契約労働者の約3割が5年を超えて契約を更新して働いているとし、こう指摘した。「多くの会社にとって、有期社員が戦力として定着しているといえます」

 その上で、長期間雇用されている有期労働者は事実上、会社に不可欠な労働力であり、無期契約にすることは自然で実態に沿う措置、としている。

 一方、ルールが明記された労働契約法は労働条件について、直前の有期契約の内容を引き継ぐと定めている。賃金や待遇は労働協約や就業規則などで特別な定めがない限り、原則として「非正規時代」のまま据え置かれる。このため、無期になった労働者の大半が男性のような立場に陥っている。

 会社の枠を超え、1人からでも加入できる労働組合「連合福岡ユニオン」によると、雇用条件の相談は相次いでいるという。寺山早苗書記長は「フルタイムの無期雇用になれば、同一労働同一賃金を定めた『パートタイム・有期雇用労働法』の対象からも外れてしまう。待遇の悪い新たな立場の労働者が生まれたことになる」と指摘する。

 福岡県内の女性(63)も無期契約になったが、給料は変わらない。1年ごとに雇用契約を更新し、10年ほど働いてきた。月給は手取り約12万円のままという。

 改善を求めたいが、「要求すればするほど自分の立場が悪くなりそうで」

 独身で1人暮らし。遠方の母の具合が悪くなれば、介護のため転居するかもしれない。今は別の仕事もして将来に備えている。

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 無期雇用への転換を、使用者が渋るケースもある。

 福岡県内の団体で働く50代男性は、1年更新の有期労働者だった。正職員の仕事を引き継ぎ、業績を数倍にした実績がある。勤務が5年を迎える頃、無期雇用になれると思っていたら、上司から「どうなるか分からない」と言われた。

 交渉すると無期契約になったが、家から遠く離れた事業所に転勤を命じられた。月給は手取り約15万円で変わらず、基本給は同年代の正職員より10万円低い。

 「頑張って結果を出したのに…。無期契約になっても給料が低いのは、雇う側がまだ非正規労働者として差別しているとしか思えない」と納得がいかない。

 無期契約になった働き手が待遇改善を望む場合、今の制度では、労組の交渉によって会社と労働協約を結ぶなどの方法に限られる。

 南山大の緒方桂子教授(労働法)は「無期契約になっても正社員との格差が残る問題は、法改正時から指摘されていた。安倍内閣は同一労働同一賃金の実現を掲げたが、正規と非正規労働者の格差を是正する限定的なもので、全く不十分。本人の仕事の価値を待遇に反映するという本当の意味の同一労働同一賃金を、雇用形態や性別にかかわらず全ての労働者に適用するよう法律に明文化すべきだ」と指摘する。 (編集委員・河野賢治)

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