【ベトナム通信】日本渡航、甘い理想と厳しい現実 ズオン弁護士

 堅調な経済成長を続け、日本企業の進出先として注目されるベトナム。1億人に迫る人口と豊富な若年労働力に加え、近年では中間所得層の増加によってマーケットとしての期待も高まってきました。福岡からも企業進出が続いており、取引支援などのため明倫国際法律事務所(福岡市)は2018年からハノイ、20年からホーチミンに弁護士を駐在させています。日本であまり知られていないベトナムの最新情報を最前線の弁護士がお届けします(随時掲載)。

■「ベトナム通信―駐在弁護士から」⑥ブイ・ホン・ズオン弁護士(ハノイ駐在) 

 私は、ハノイから北へバスで2時間半かかるフートーの田舎に生まれました。2011年に日本の国際交流基金のプログラムに参加するため、短期間ですが初めて日本に行く機会がありました。その当時、日本に行けるということは意外と大きなことで、村の住民からぜいたくなお祝いをいただきました。

 しかし、今では故郷に戻ると、日本留学や日本への送り出しの広告を道でたくさん見かけるようになりました。日本に留学したり、技能実習生として日本で働いたりしている人が非常に多くなっています。また、貧しい田舎でも、日本製の商品を扱うお店が出てきたことにも驚きます。

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 先日、ベトナムの大学入学試験の前に、何人かの高校生から相談を受けました。日本の日本語学校に留学するか、ベトナムの大学に行くかという相談です。日本に行きたいと希望する若者と話す時に感じる特に大きな問題は、日本に行く目的が不明確であること、帰国した後のキャリアプランが未定であること、そして日本に対する誤解です。

ベトナムの高校生を対象とした日本留学の説明会=2018年8月、タイビン省のクイントー高校

 日本に行きたいと考えるきっかけの多くは、お金が欲しいこと、親の勧め、日本にいる知り合いの日本での生活に憧れること、もしくは何らかの事情から逃げたいことです。

 高校を卒業したばかりの若者が、十分な知識を持たず、かつ社会的な経験も少ない中で、日本にいきなり行くと、さまざまな物事の判断を間違えてしまう可能性が山ほどあると思います。ただ、若さが全ての原因ではありません。ベトナム国内での情報発信が不十分であったり、信頼できる情報を見つけることが難しかったりするという環境もあります。また、特に日本への留学生の支援事業者には、悪徳業者が少なくないことも大きな課題です。

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 日本への留学生の支援事業者は、利益最大化を目指し「日本に行きたい」と希望する人がいれば、どんな方法を使ってでも日本に行かせようとします。支援事業者は、学生に対して十分な進路指導を行わず、日本に行くことだけを勧めます。

 結局、日本に行って苦しい生活に直面する人が少なくありません。留学の表面上の目的は日本語の勉強ですが、本当の目的はお金を稼ぐことにあります。ただし、さまざまな制限があり、簡単にお金を稼ぐことはできません。その失意や親からの圧力、ローンの負担などを含めて、どう解決できるのかは若者には考えられません。そのため、犯罪者になったり、学校をサボって死ぬまでアルバイトをしたりするベトナムの若者が日本で増えているのが現状です。

 無事にベトナムに帰国できる人も、基本的には得た知識が浅く、日本語能力もそこまで優秀ではない上、ベトナムでの大学への進学機会を失って、さらにはお金もない状況となり、目指す将来があいまいになってしまいます。そこで悪徳業者になったり、日本製商品の偽物を販売する業者になったりするケースも少なくありませんし、日本への不満もだんだん高くなっていきます。

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 このような状況が続きますと、今後、非常に大きな社会問題になると思います。もちろん人の移動は必要ですし、海外に行きたいと思う人の希望を制限することは誰にもできませんが、私はしかるべき人にのみ、その機会を与える方が適切だと考えます。そのしかるべき人を選出するためには、留学生を受け入れる日本語学校などの協力が必要です。ベトナムの若者が日本に行く前に十分な進路指導を行って留学生の本音を聞くと同時に、さまざまな事実や情報を提供することを第1のステップとして取り入れるべきではないでしょうか。

□九州からの企業進出状況=九州経済調査協会によると、九州(山口、沖縄両県を含む)に本社を置く企業が海外進出した件数のうち、近年はベトナムが上位を占めています。新型コロナウイルスの影響で海外展開が減少した2020年は18件のうち4件(米国への進出と同数)、19年は45件のうち6件を占め、両年ともトップ。九経調は1986年から2020年までの進出数も集計しており、ベトナムは82件。中国(376件)や米国(139件)ほどではありませんが、台湾(80件)、韓国(72件)を上回り、タイ(101件)に迫っています。

ブイ・ホン・ズオン(Bui Hong Duong)。ベトナム・フート省出身、30歳。ハノイ在住。ベトナム投資・ビジネスの法務支援、企業の合併・買収(M&A)、不動産の法務調査などを担当。趣味は子どもと遊ぶこと。弁護士以外でやりたかった職業はカフェ経営や農家。

明倫国際法律事務所=福岡市に拠点を置く大手ローファーム(法律事務所)。企業の海外展開や契約、知的財産権、合併・買収(M&A)といった業務に精通した弁護士27人(うち4人は外国人弁護士)が活躍している。ベトナムのほか、中国・上海、香港、シンガポール、東京にも事務所を持つ。代表は田中雅敏弁護士。

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