西日本文化賞 未来開くヒントがそこに

 新型コロナウイルスの出現により、私たちは立ち止まって考えざるを得なくなった。生きていく上で本当に大切なものは何か、未来を切り開く新しい価値とはどんなものか。西日本文化賞の本年度受賞者4人の業績からは、そんな問いを解くヒントが浮かび上がってくる。

 西日本文化賞は、西日本新聞社の前身である福岡日日新聞社が1940年に創設し、地域の文化向上や発展に貢献した個人・団体に贈られてきた。「文化の日」のきょう、第80回贈呈式が福岡市で行われる。積み重ねてきた並々ならぬ努力と、唯一無二の功績に敬意を表したい。

 学術文化部門には、長崎大大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科研究科長の北潔さんが選ばれた。寄生虫を中心に熱帯地域の感染症を研究し、創薬に道を開いてきた。現地で感染症は貧困や経済格差と直結する深刻な問題だが、先進国の関心は高くない。そんな状況を打開しようと、地球規模で健康を考えるグローバルヘルスの必要性を早くから訴え、国内外で研究や人材育成に力を注いできた。

 この部門では若手・中堅を対象にした奨励賞も、世界の未来を見据える研究者が受賞した。九州大主幹教授の馬奈木俊介さんは「新国富指標」を提唱し、国連の新国富報告書の代表も務める。自然や教育、健康など異なる価値を金銭単位に換算し、多様な「豊かさ」を総合的に測る物差しだ。自治体や国レベルで活用され、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の成果指標にもなり得ると注目される。

 社会文化部門は福岡県の鞍手町歴史民俗資料館の元職員、井手川泰子さんに贈られる。1970年代から筑豊で女性炭鉱労働者を訪ね歩き、84年に「火を産んだ母たち-女坑夫からの聞き書」を発刊した。一人でも多く記録したいと、今も聞き取りを続け、講演で語り継ぐ。国内外でフェミニズムの意識が高まる中、女性の生き方と時代を見つめた著書は再評価されており、年内に新装版が出る予定だ。

 この部門の奨励賞には北九州市在住の落語家、橘家文太さんが選ばれた。二ツ目に昇進した昨年、師匠の橘家文蔵さんから古里での活動を勧められ、帰郷した。とはいえ九州には常設寄席はなく、コロナ禍で屋内の落語会も開けない。「それなら作ってしまえ」とトラックを「落語カー」に改造し、屋外の出張寄席を続けている。文化は不要不急なんかではないというメッセージが伝わってくる。

 不安が先立つ時代だけに、未来に希望を見いだす手掛かりがほしい。4人の方々の地道な努力と功績はそれぞれに、私たちへ力を与えてくれる。

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