42年前の解剖医も「事故死」主張 大崎事件 首の血腫は転落で生じた可能性

 鹿児島県で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件を巡り、殺人罪などで服役した原口アヤ子さん(94)が裁判のやり直しを求める第4次再審請求で、弁護側は42年前に司法解剖をした法医学者の鑑定を再評価するよう主張している。新証拠として救命救急医の医学鑑定を提出しており、二つの鑑定が「被害者は側溝転落による事故死の可能性がある」とする点で一致するからだ。再審開始の可否決定は来春以降に出る見通し。

 79年10月15日の遺体発見直後に解剖したのは、鹿児島大法医学教室の城(じょう)哲男教授(当時)。鑑定書では、死因を「首に血腫(内出血)があり、首に外力が作用した窒息死を想像する」と指摘。「タオルで首を絞めた」とするアヤ子さんの夫らの自白を裏付ける証拠として確定判決を支えた。

 城氏はその後、異例の行動に出る。第1次請求前の93年、自らの最初の鑑定書を「被害者の側溝転落事故を聞いていなかった」として訂正。「城新鑑定書」と証人尋問で「首に皮下出血を認めないので、首の血腫は、タオルによる絞頸(こうけい)で生じたものではない」として側溝転落で生じた可能性を認めた。転落状況によっては頸椎(けいつい)(首の骨)損傷で死亡する場合も「あり得る」と主張。2002年に大崎事件で最初の再審開始決定が出る根拠となった。

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 第4次請求でも首の血腫が生じた時期は被害者の「死亡時期」に直結するものとして焦点になっている。

 弁護側証人の埼玉医科大高度救命救急センター長の澤野誠教授は(1)血腫は側溝転落の際、首の骨を支える前縦靱帯(じんたい)の損傷で生じた(2)同時に頸髄(けいずい)(首の神経)を損傷(3)その後、近隣住民の不適切な搬送で頸髄損傷が悪化し、自宅到着時に死亡していたことは確実-と説明。城氏の解剖所見、自らの臨床例、転落状況の再現実験などを根拠とした。

 一方、検察側証人の産業医科大法医学教室の佐藤寛晃教授は6月の証人尋問で「複数人で首を絞める行為でも、1人があおむけの被害者の首を絞めながらタオルで首を持ち上げ、他者が体を逆方向に押さえつけるような特殊な場合なら、血腫が生じる」とした。

 この主張は、アヤ子さんと義弟があおむけの被害者を押さえ、夫がタオルで首を絞めたとする確定判決が認めた殺害方法に通じる見解。城新鑑定はこれを否定する形だ。

 鹿児島地裁が再審開始を認めるか否か-。鍵を握るのが澤野鑑定の評価だ。成城大法学部の指宿信教授(刑事訴訟法)は「豊富な臨床例に支えられた澤野鑑定の信用性は高いと思う。城新鑑定はさらにそれを補強する関係にある」と指摘。元東京高裁裁判長の門野博氏は「澤野鑑定の信用性は、血腫が側溝転落で生じた可能性がどれだけ証明されているかによって決まる。被害者を解剖した城氏の新鑑定の持つ意味は大きく、それがプラスされることで、澤野鑑定の信用性は十分なレベルまで高まると思う」と語る。 (編集委員・中島邦之)

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