共働きと介護、綱渡りの6年「家族頼みは限界」在宅支援、質の充実訴え

 「家族が一人でも体調を崩せば、日常は成り立ちません」-。小児の在宅医療体制を考える八女筑後医師会(福岡県八女市)主催の研修会があり、6年前にがんを発症し、医療的ケア(医ケア)が必要になったわが子と同県筑後市の自宅で暮らす共働きの夫婦が講演した。“家族頼み”の介護・看護の限界と、在宅向け医療、福祉サービスの充実を訴えた。9月に施行された医療的ケア児支援法で自治体の責務となった「家族の離職防止」の実現には、なおハードルが高いことをうかがわせる。

 大好きな姉2人に囲まれて。頑張って自分を抱え、眼鏡がずり落ちた父の顔を見ながら。内田諒(りょう)さん(14)=特別支援学校中学部2年=はいつも、満面の笑みで家族を癒やしている。

 そんな息子の写真や動画を交え、母まゆみさん(51)は、仕事と介護の両立の厳しさを訴えた。「多くの支援者と少しずつ顔の見える関係を作ってきましたが…。負担は大きいです」。いつまで続けられるのか、自問しない日はない。

複数回の利用に壁

 諒さんは脳腫瘍のため8歳のとき小学校で倒れ、低酸素脳症の影響で気管切開し、人工呼吸器の使用や胃ろうなどが必要になった。

 ともに看護師のまゆみさんと夫の瑞年(みづとし)さん(49)。呼吸器の患者に対応した経験は少なかったものの「家族で過ごしたい」との強い思いで在宅生活を選んだ。

 訪問系サービスの頼みの綱は、医療職である訪問看護だ。在宅の医ケア児が増えたことに伴い、小児向けの事業所は各地で増加。制度上は1回90分の訪問を毎日複数回利用でき、諒さんは3カ所と契約している。

 しかし、いずれもマンパワー不足で「日に2回を超える支援は難しい」と言われている。おむつやガーゼ交換、胃ろう注入、体位交換…。夕方から翌朝午前9時までは家族で対応する。

 幸い、目の前に住む祖父母が吸引などを必死に覚え、手伝ってくれる。たまに有償ボランティアも利用する。ただ吸引は夜中も2時間おき。平日はまゆみさんが諒さんのそばにマットを敷いて横になり、アラームをセットして起きる。

 「昼間は仕事なので睡眠不足はかなりこたえます」

働くことに罪悪感

 福祉職のヘルパー支援への期待も大きい。一定の研修を受ければ、ヘルパーでも吸引など医ケアの一部に対応できるからだ。だが「研修を受けたヘルパーが所属する事業所でも、リスクを懸念してか、医ケアはしていないところが多い」のが現状。今は月に10時間利用しているものの、支援は医療機器類の消毒や掃除、洗濯などに限られている。

 諒さんが18歳になれば、1日24時間のヘルパー利用も可能な重度訪問介護の対象となるが「そもそも近くに夜間対応のヘルパーを確保している事業所があるのかどうか」も不明だ。

 諒さんの入浴は家族3人がかり。週2回、看護師やヘルパーが来てくれていた訪問入浴は、夫婦とも時間までに必ず帰宅することが難しくなり、使わなくなった。まゆみさんが体を洗い、夫がそばでケアを担当し、娘はベッドを整える。人数が確保できなければ断念する日もある。

 医ケア児の送迎支援がないため、学校は週3回の訪問教育。日中一時支援施設の利用も、夫婦で休みをやりくりして都合がついたときのみ。「家ではできない運動や遊びが、良い刺激になっているのに…」

 衛生用品には購入補助がないなど金銭的負担も大きく、仕事は辞められない。娘たちに介護の手助けを受けざるを得ない申し訳なさも募る。「罪悪感で、いつも葛藤しています」とまゆみさんは声を落とした。

孤立しない努力も

 夫婦は、周囲にSOSを発信する「大切さ」も痛感している。懸念していた災害時の支援を自治会などに訴えたところ、近所の有志や行政、病院、福祉の事業所などの協力で、連絡網や避難計画づくりが実現した。

 「家族だけで介護をしていると、自分たちなりのケアの方法に凝り固まり、専門職のアドバイスにも向き合わなくなりがち」。そう自戒を込めて語ったのは、夜勤明けに寝ずに諒さんのケアをすることもある瑞年さん。家族の“孤立”を避けるためにも「支援者と歩み寄っていく努力も大事だ」と強調した。介護を理由に前向きな気持ちを失わないよう「ストレスの発散」も心掛け、最近はギターを始め、リビングで諒さんに聴かせているという。

 在宅の療養者が増え、さまざまな制度やサービスのメニューは広がりつつある半面、利用時の現実とのギャップはよく知られていない。当事者の赤裸々な思いをどう受け止め、支援の「質」を高めていくのか。医療や福祉関係者だけでなく、社会全体が問われている。

 (編集委員・三宅大介)

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