電車内の凶行 死角なくす地道な対策を

 この凶行を完全に防ぐのは難しいとしても、手をこまねいているわけにはいかない。国と鉄道事業者は事件を検証し、対策の強化に取り組んでほしい。

 東京で先月末、鉄道利用者を震撼(しんかん)させる惨事がまたしても起こった。走行中の京王線特急電車内で刃物を持った男が無差別に乗客を襲い、床に油をまいて火を放った。車内はパニックになり、17人が重軽傷を負った。

 男は最寄り駅に緊急停車した電車内で警察官に取り押さえられた。衝撃は、この間の経緯だけにとどまらない。その後の取り調べに対する供述内容にも、強い憤りと恐怖を覚える。

 容疑者の男は、8月に東京の小田急線で起きた類似の事件を手本にしたという。停車駅の間隔が長い特急電車を狙って、着火しやすいライター用オイルを大量に準備するなど計画的だった。動機に関しては、仕事や友人関係がうまくいかず「人を殺して死刑になりたかった」などと供述しているという。

 走行中の電車内には逃げ場がない。その防犯上の「死角」に付け入る犯罪は近年、東海道新幹線での殺傷事件などを含め、連鎖的に発生している。

 今回は緊急停車した駅で電車の停止位置がずれ、乗務員がドアを開けない判断をしたため、乗客の多くは窓から逃げざるを得なかった。乗務員は乗客が押した非常通報装置で異常を察知したものの、乗客とのやりとりはできず、車内で何が起きたのか把握できていなかった。

 重い教訓である。いざ事件が発生した際、乗務員がいかに迅速かつ的確に状況をつかみ、乗客の避難経路を確保するか。さまざまなケースを想定して対応策を練り、鉄道事業者間でそれを共有する必要があろう。

 国土交通省はこれまでに、未梱包(みこんぽう)の刃物類の車内持ち込みを禁じ、鉄道事業者による手荷物検査を認める省令改正を行っている。事業者は独自に駅構内や車両内に防犯カメラを設置する作業も順次進めてきた。

 利用客が多い路線での検査は現実には難しく、カメラ設置も費用を要する。それでも可能な限りこれらの対策を進め、駅員らの巡回や訓練の強化も含め、監視の目を地道に広げることが再発の防止につながろう。

 私たち利用者の側も、この認識を共有することが大切だ。日頃から非常通報装置やドア開閉装置の位置や仕組みを確認し、備えを怠らぬようにしたい。

 今回の事件で報じられている動機はにわかには理解し難い。警察には徹底解明を求めたい。凶行が連鎖する背景に、共通の病理が潜んではいないか。そこにも目を向け、社会全体としての取り組みも考えていきたい。

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