TSMC新工場 半導体産業再興へつなげ

 日本の半導体産業の将来を左右するプロジェクトが九州で始動することになった。

 世界屈指の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本県菊陽町に新工場を建設すると発表した。

 取引先であるソニーグループと合弁会社を設立し、2024年末までに、回路線幅22~28ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体の生産を始めるという。

 日本政府は数千億円の補助金を出し、全面的に支援する方針だ。企業誘致として前例なき規模の公金を投じる以上、その恩恵が特定企業ではなく産業界全体に行き渡るよう注文したい。

 九州は半導体関連産業が集積するシリコンアイランドと呼ばれてきた。今回の新工場は新規雇用も含めて明るい話題だ。

 半導体は回路線幅が狭いほど集積度が高くなる。頭脳に例えられるロジック半導体で、TSMCなど先端メーカーは数ナノメートルの微細加工技術を持つ。日本メーカーは開発競争から脱落し、国内の工場で生産できるのは40ナノメートルまでにとどまるという。

 新工場予定地の隣にソニーグループの画像センサー工場がある。スマートフォンや車載カメラなど向けに需要が広がり、熊本地震で被災しながらも早期に復旧し増産を続ける。新工場はまず画像センサーに組み込む半導体を生産するとみられる。

 新工場で生産するのは最先端技術を要する半導体ではないものの、自動車や家電に広く利用される製品である。半導体は「産業のコメ」とも称されるだけに、新工場への期待は高い。

 新工場で最新の生産技術を学び、国内半導体産業の再興につなげる取り組みも重要だ。

 最近、国内の自動車メーカーが生産計画を相次ぎ下方修正しているのも、新型コロナ禍による世界的な半導体不足が原因である。国内供給体制の強化が課題となっており、経済安全保障の面でも意義は大きい。

 経済産業省には、このままでは日本の半導体産業の競争力が失われるとの危機感がある。同産業の日本のシェアは1988年には50%を超えていたのに、じりじり低下し2019年は10%になった。急いで思い切った手を打たねば、さらにシェアが落ち込むのは明らかだった。

 社会のデジタル化や米中の覇権争いを背景に、米国や欧州が半導体生産拠点の整備に力を入れる中、TSMCの工場誘致にこぎつけたことは評価できる。

 ただ、新工場に当初必要な設備投資額約8千億円の半分程度を国が支援すると見込まれる。政府はその意義を国民に分かりやすく説明すると同時に、TSMC側にも支出に見合うものをしっかりと求めるべきだ。

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