この子がママと呼ぶのは…「匿名出産」を翻意させた里子との出会い

 「誰にも知られずに出産したい」と希望する女性を保護していた慈恵病院(熊本市西区)は10日、女性が女児を出産し、家族に知らせることに同意、子どもを自ら育てる意向を示したことを公表した。日本では法制化されていない「内密・匿名出産」の初めての事例となる可能性があり、その場合、子どもの戸籍が作れなくなる事態などが懸念されたが、今回は回避された。

(西村百合恵、鶴善行)

産後に一転…初の事例は回避

 慈恵病院は2007年、親が育てられない新生児を匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置。医師が立ち会わない「孤立出産」をした後に赤ちゃんを連れてくる危険なケースが相次いだため、19年12月、病院だけに身元を明かして院内で出産し、子どもが一定の年齢になると出自を知ることができる独自の「内密出産制度」の導入を表明した。出産後は子育てに関与しないことが想定されている。

 今回、女性は病院に身元情報の一部しか伝えておらず、子どもに身元を知られることを拒んでいたため「匿名出産」に近い状態だった。内密、匿名のいずれにしても国内では初のケースとなる可能性があった。

 慈恵病院によると、女性は未成年で初産だった。女児は自然分娩(ぶんべん)で生まれ体重3400グラム。母子ともに健康という。出産日は明らかにしていない。

 女性は10月にメールで病院側に相談し、公共交通機関などを利用して熊本県外から訪れ、病院が保護した。妊婦健診を受けておらず、検査で臨月間近と判明。家族に出産を知られることを懸念し、子どもへの身元開示も拒否していたが、出産後の今月10日午前、考えが変わったことを打ち明けたという。

 記者会見した蓮田健院長は、他の女性からも内密出産の相談を受けていることを説明し「母子が安全に出産できるよう行政にお願いしたい」と述べた。

 熊本市は17年から国に内密出産の法制化を要望している一方、子どもの戸籍作成や出自を知る権利の担保などを巡り「法令に抵触する可能性を否定することは困難」として、内密出産の実施を控えるよう病院側に要請している。 

制度化検討の価値ある

 

 関西大の山縣文治教授(子ども家庭福祉学)の話 内密出産は、子どもの戸籍作成や民間病院による個人情報の管理など解決すべき課題が多い。ただ、医療機関で出産することで母子の安全が確保されるという点で「赤ちゃんポスト」よりも評価でき、法整備を検討する価値はある。今回の女性が翻意した背景には、相談当初から病院スタッフが寄り添い続けたことがあるだろう。

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