あの日の春秋:誰が「借金」を返すのか(1995年11月7日)

イスラエルの笑い話にこんなのがある。夫が夜も眠れないでいるので、妻がなぜか、と聞く。「借金が返せない」と夫。妻は笑って「心配するのは、あなたではなく、借金を返してもらえない方でしょう」▼イスラエルのラビン首相が極右の青年に暗殺された。彼は首相を「売国奴」とののしったという。ヨルダン川西岸の自治移行で、入植地を追われそうなユダヤ人の不満と不安は、分からないでもない。入植地は彼らにとって、神の「約束の地」でもある▼一方、パレスチナ人の悲劇と怒りも理解できる。大戦後、シオニズム(ユダヤ人の郷土復帰運動)に、なぜパレスチナ人が父祖の地を明け渡さねばならないか。以後、だれが「借金」があるのか、不毛の論議と戦争が続いてきた▼ラビン首相とアラファト議長ノーベル賞が贈られたのは、彼らが不毛の対決に終止符を打ち、和平推進に転じたからだ。イスラエルを真っ先に承認して暗殺されたエジプトのサダト大統領も、中東新時代を開いた「殉教者」であった▼ペレス政権は和平路線を引き継ぐという。当然である。和平への基礎ができた今、イスラエルもパレスチナ側も自らの背負った「借金」(約束)返済を、真剣に心配してほしい。新時代を閉ざしては、喜ぶのはテロのみだ▼和平の実現には大国の責任も重い。彼らは歴史的に、決して善意の第三者などではない。本当の借金主だ。借り主が返済を心配しないのでは、中東の安定した秩序は築けない。(1995年11月7日)

 特別論説委員から パレスチナの地は今も憎しみと暴力の連鎖を断てず、不毛な「借金」は膨らみ続けている。翻って日本では国と地方で本物の借金が膨らみ続けている。「借金が返せない」と夜も眠れない夫に、妻は「心配するのは、あなたではなく、借金を返す子や孫たちでしょう」。笑い話ではない。またぞろ、新型コロナ対策の名目で大盤振る舞いだ。困窮している人への支援は急務だが、便乗ばらまき、選挙目当てのにおいも。借り主はどこ吹く風で、つけは次の世代に。(2021年11月14日)

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