鳥居、雅楽…菅原道真公も驚く「和のサウナ」が“建立”された理由

サウナワールド ととのう人たち(5)

 「サウナと和」。頭の中ではなかなか結び付かない二つの要素を融合させ、具現化した施設が福岡県にある。宝満山や太宰府市内を一望できる高台に建つ「筑紫野 天拝の郷」(筑紫野市)。サウナ室に鎮座する鳥居、流れる雅楽…。昨年2月、大幅にリニューアルされるや、サウナーの間で話題に。評判は瞬く間に全国へと広がった。発案者は天拝の郷で温浴設備を担当するアシスタントマネジャーの柴田健太郎さん(43)。唯一無二のサウナは、いかにして生まれたのか-。

 

男性浴場のサウナ改修を手がけた柴田健太郎さん。利用客に楽しんでもらおうと、自ら和装束でアウフグースを行うことも

 「うちは元々、女性客がメインターゲットで、『食』に力を入れていました。施設の老朽化に伴い2017年に改修した際、真っ先にビュッフェレストランをきれいにしたんですが、温浴設備は手つかずでした。末永く愛される施設にするには『浴場の手直しも必要だよね』という話が持ち上がり、風呂好き、サウナ好きを公言していた私に『やってみないか』と声がかかりました。違う部署にいましたが、企画からやらせてもらえるということで二つ返事で引き受けたんです」

男性浴場のサウナ改修を手がけた柴田健太郎さん。「ゆくゆくは、鳥居に祈りを捧げた後、和装束で行うアウフグース『和ウフグース』のイベントをやってみたい」とアイデアは尽きない

 それまでも、暇さえあればインターネットでフィンランドやドイツ、オランダなど「サウナ大国」の実情を調べては「妄想世界旅行」に出かけ、「いつか自分もこんなサウナを作ってみたい」と願ってきた。

 「当時はまだ『ととのい』ブームは始まっていなくて、サウナの認知度もそれほど高くありませんでした。私が周りに素晴らしさを訴えても、『え、何を言ってるの?』とけげんな顔をされるのがほとんどで…。絶対にブームが来るという自信はあったので、懲りずに『布教』は続けていました」

サウナ目当ての利用客が増えた「天拝の郷」

 改修の企画を任されると、ため込んできた思いが次々にアイデアとなって浮かんできた。その一つが今も九州ではあまり実践例がない「セルフロウリュ」だ。

 「熱したサウナストーンに水を掛けて水蒸気を発生させ、体感温度を上げて発汗作用を促進するのがロウリュ。これを利用者自らが行うのが『セルフロウリュ』です。室内の湿度が下がってきたなと思ったら、自分たちで適宜水を掛けることでより効果的に発汗を促すことができ、効果も持続させられる。日本では安全面などから施設の従業員が決まった時間に行うことがほとんどです。でも、本場フィンランドではセルフが当たり前。どうしてもこれを導入したかった」

 ストーブを低い位置に、利用者が座る場所を高い位置にして、天井を低くするなど配置・設定にもこだわった。こうすることで、利用者はつま先から頭までまんべんなく蒸され、全身を温めることができるというわけだ。そしてもう一つ、ほかにはないアイデアが「和」だった。

 「サウナの改修に当たって参考にしたのが、サウナーの間で西の聖地と呼ばれている『湯らっくす』(熊本市)さんです。ここのメディテーション(めいそう)サウナはテレビがなく、照明は足元を照らす明かりだけ。暗く静かな部屋で、じっくり自分と向き合える。この環境を求めて全国から人が集まるのです」

 「そんな独自性をうちでも作れないかと考えました。意識したのは『地元』。『天拝の郷』の名は、地元の天拝山にあやかっています。そこで天拝山の歴史を調べると、かの菅原道真公が大宰府に左遷された後、無実を訴えるため何度も山に登り、天を拝したという伝記に由来があることが分かりました。そこから『道真公といえば天満宮。和のコンセプトでいけるんじゃないか』とイメージを膨らませていきました」

 かくして、「和」をテーマにしたオリジナルのサウナが完成。改修前、広々とした1室だったサウナ室を二つに分け、1部屋は雅楽が流れる中でセルフロウリュを楽しめる湿度高めの「通好み」仕様に、もう1部屋は中に鳥居を置いて厳かな雰囲気を演出しつつ、テレビも備えて昔ながらのサウナファンも楽しめる仕様にした。

(左)サウナ室に鎮座する鳥居(右)自ら手がけたサウナ室で笑顔を見せる柴田さん。天拝山と梅の花を描いたタイル作品と、大きなサウナストーブが目を引く(右下)「和」をテーマにしたサウナ室「さうな天満宮」

 さて、その出来栄えの自己評価は。

 「サウナの楽しみには、汗をかいてきたらシラカバの枝葉などを束ねた『ヴィヒタ』で身体をたたき、血行を促進させる『ウィスキング』もあります。うちのヴィヒタは榊の枝葉を束ねたもの。榊といえば神社にはつきもの。どちらもひしゃくを使います。サウナと和は意外と親和性が高い気がします。方向性としては良かったのかなと」

 「幸いなことに、リニューアルオープン後、お客様からは『新しいサウナ、飛び抜けていいね』といった喜びの声を多くいただいています。完成後に各地のサウナを視察に行きましたが、うちのようなサウナはありませんでした。欲を言えばきりがないですが、理想に近いものは作れたのではないかと思います」

(左)水風呂は天拝山の天然水を使用しており、水温は16度前後に保たれている(右)水風呂に入った後は、こちらのととのい椅子でリラックス

 自身のサウナデビューは小学生のころ。家族で旅行するたび、旅館やホテルのサウナに入ったが、水風呂は避けていた。当時参加していた合唱団で松山市に旅行した際、旅館で出会った地元の「おっちゃん」から手ほどきを受けた。友達2人とサウナ室でわいわい遊んでいたところ、入ってきた大人の男性から「おい、おまえら」と声を掛けられたのだという。

 「『怒られる』と思ったんですが、そのおっちゃんは親切にサウナの楽しみ方を教えてくれました。口酸っぱく言われたのが水風呂。『水風呂に入らないとだめだ、効果は出ない』って。それ以来、冷たいのを我慢して水風呂に入るようになって。やがて、周りの大人も『小さいのに、こいつ、やるな』という目で私を見るようになり、それが心地よくてどんどんサウナにはまりましたね」

 改修後の天拝の郷は口コミで人気が広がり、全国に点在する魅力的なサウナへの遠征「サ旅」の目的地とされるまでになった。夢をかなえた柴田さんの次なる目標は-。

 「改修前は女性客の方が多かったんです。今は7、8割が男性。サウナ目当てで来てもらえるのはうれしいですが、やはり女性にもサウナを堪能してもらいたい。男女問わず楽しめるのがサウナの魅力の一つ。ですから、女性浴場の改修が次の目標です」

(左)天拝の郷では、さまざまなサウナ関連のオリジナルグッズが売られている。Tシャツなどのデザインは、大学で美術を専攻していた柴田さんが手がけた(右)販売されているグッズにはヴィヒタ(手前)も

 「緊急事態宣言中は休んでいましたが、アウフグースにも力を入れています。お客さまに喜んでもらおうと、私自身が和装束にのスタイルで『和ウフグース』を行うこともあります。ゆくゆくは、館内でさまざまなサウナイベントもやってみたいなと思っています」

(西日本新聞meサウナ部・富田慎志、写真撮影は金田達依)

(左)男性浴場のサウナ改修を手がけた柴田健太郎さん。手に持つのは榊のヴィヒタだ(右)柴田さんの「和ウフグース」

 セルフロウリュ サウナワールド第3回でも取り上げたロウリュ。詳しくない人のためにいま一度説明すると、サウナストーブの上に置かれた熱いサウナストーンに水をかけ、たくさんの水蒸気を発生させるというもの。普通にサウナ室に入っているよりも多くの発汗を促すことで、新陳代謝を促進。体の深部まで温まり、リラックス効果も得られる。

 本場フィンランドでは、利用者が好きなときに水を掛けるのが当たり前。日本では施設従業員が決まった時間にサウナ室に来て水を掛けるスタイルが定着しているので、利用者自身が行うロウリュをあえて「セルフ」と呼んでいる。

 セルフのいいところは、好きなタイミングで湿度を上げられる点。サウナストーブに水を掛けると一瞬で水蒸気になり、室内の湿度が上昇。それに伴って体感温度が飛躍的に上がり、気持ちよく汗をかくことが可能だ。

 最近は、少しずつ日本でもセルフを導入する施設が増えてきた。サウナ室に入って、手水桶の水が減っていればまず水をくみに行くなど、利用者のマナーも向上している。一方、頻繁に水を掛けることでサウナストーブが故障してしまう事例も起きているので、セルフを行う場合は掛け過ぎに十分注意してほしい。

 

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