83歳夫の涙忘れられず「一緒に死のう」決めた妻…悲劇生んだコロナ入院

 北九州市小倉北区の自宅で3月、83歳の夫を殺害したとして殺人罪に問われた塗木百合子被告(76)の裁判員裁判の初公判が22日、福岡地裁小倉支部であり、被告は起訴内容を認めた。夫は新型コロナウイルスに感染して入院した時のことを「地獄のようだった」と涙ながらに語っていたという。その夫が再び体調を崩し、再入院が頭をよぎると、被告は「これ以上苦しめたくない」とストールで首を絞め、自らの手首を切った。夫婦を知る人たちは「なぜ…」と途方に暮れている。

 検察側と弁護側の冒頭陳述などによると、夫の春男さんは1月下旬、新型コロナ感染で入院し、3月初めに自宅に帰ってきた。これまで涙を見せたことがなかった春男さんが大泣きした。

 「病院ではトイレも着替えも1人でできない」「お漏らししても、すぐには服を替えてもらえない」。被告は夫の背中をさすり続けた。

 退院から2日後の夜、夫は「頭が痛い」と訴えて横になった。夫の隣に座り、救急車を呼ぶことを考えた。でも頭に浮かんだのは入院を嫌がる姿。「じいちゃん、一緒に死のうね。先に行ってて。私も後から行くから」

 部屋にあったチョッキを夫の顔に押し付けたが、顔を背けられた。でも「また病院で嫌な思いをするのはかわいそう」と思い、ストールで首を絞めた。夫の左手がすーっと落ちた。「亡くなったんだ」。ストールをたたんで枕元に置いた。

 面倒を見てくれた長女に「ありがとう」と手紙を書いた。果物ナイフで自分の手首と腕を切り、血が流れるままにしていたが、次第に外が白んできた。「死ねなかった」。長女に電話し、事件が発覚した。

 「好きな人だから、一緒にずっと生きていきたかった」

 被告人質問で、百合子被告は53年間寄り添った夫への思いを語った。22歳で結婚し、2人の子宝に恵まれた。夫婦一緒に買い物に出掛け、ゲームセンターで遊んだこともあった。仲むつまじく、近所の住人も「けんかとは無縁そうな夫婦だ」と話していた。弁護側によると、被告には軽度の知的障害があり、近くに住む長女や孫が買い物や食事の準備を手伝うなどして生活を支えていたという。

 百合子被告は保釈され、現在は長女宅に身を寄せている。仏壇に「じいちゃんごめんね。苦しかったね」と手を合わせる日々。夫とはもう会えない。法廷で「人として、してはいけないことをした。どんな罪でも受けようと思います」と語り、うなだれた。 (笠原和香子)

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