HTLV1「新たに年4千人」 性交渉も関与?国の総合対策10年、啓発半ば

 九州に患者が多い成人T細胞白血病(ATL)や脊髄症(HAM)の原因ウイルス「HTLV1」に関する総合対策を国が始めて10年が過ぎた。公費による妊婦の抗体検査など母子感染予防は進み、治療法研究も加速した。ただ、地域で対策に差が出ており、性交渉による感染リスクの伝え方など啓発の課題も残る。

 「総合対策は降って湧いたのではなく、積み重ねがもたらした」。7日、熊本市で開かれた「世界HTLVデー記念講演会」。HTLV1の撲滅を目指すNPO法人「スマイルリボン」(鹿児島市)の菅付加代子代表はオンラインで講演し、こう振り返った。

 HTLV1の感染者は九州の離島や沿岸部に多く、旧厚生省は約30年前、九州などの「風土病」と判断し、全国対策を放置していた。HAMを患う菅付さんは2003年、患者会を立ち上げ、国に対策を求める活動を開始。研究者の協力などで広く知られるようになり、10年9月に当時の菅直人首相と面会が実現した。菅氏は国の誤りを認め、感染拡大を防ぐ総合対策が11年4月、本格的に始まった。

 総合対策は母子感染予防に重点を置く。柱の一つが公費による妊婦健診時の抗体検査だ。感染した母親が長期間授乳すれば、子どもの約20%に感染するとされる。このため、抗体検査で感染が判明した母親に粉ミルクを薦めるなど、保健所の相談指導体制を整えた。

 各都道府県には、対策の司令塔となる「母子感染対策協議会」を設置。相談窓口の整備や医療従事者の研修に取り組む。昨年4月時点で38都道府県が協議会を立ち上げ、厚生労働省の担当者は「取り組みは着実に広がった」と強調する。ただ、感染の少ない地域で対策が進まないケースもあり、地域格差を埋めることが課題となっている。

 研究でも前進があった。ATLやHAMは発症予防薬や完全な治療薬が確立していない。総合対策では、病態解明や治療法開発の研究費を従来の4倍以上となる年間10億円に増額。臨床試験などの研究が進む。

 一方、当時の官邸主導で緒に就いた総合対策には法的な根拠がなく、取り組みは自治体任せの側面がある。患者団体や研究者からは、感染症法で国が発生動向調査を行う「5類感染症」への指定や、総合対策法の制定を求める声も上がる。

 啓発を巡る新たな課題も浮上する。日赤九州ブロック血液センターなどの疫学調査では、全国で年間4千人以上が新たに感染していると推定される。特に、九州・沖縄の調査では1985年以降に生まれた若年層で新規感染が増加傾向にあることが判明。原因は不明だが、性交渉による感染が懸念されるという。だが、性交渉の制限や結婚差別、家庭内の混乱につながるという慎重論もあり、啓発はほとんど行われていない。

 同センターの相良康子品質部課長は「ATLやHAMを発症する人はごく一部だが、何もしなければ感染を広げてしまう。デリケートな問題でも知識を伝え、正しく恐れる必要がある」と話す。

 (山下真)

■感染実態を把握する仕組み必要

 日本HTLV-1学会理事長の渡辺俊樹・聖マリアンナ医科大特任教授(血液腫瘍学)の話 総合対策で母子感染予防は大きな一歩を踏み出した。治療薬の基礎研究も活発となり、世界的に注目されている。ただ、感染実態はつかめておらず、感染者数も献血者の抗体スクリーニングで得られた推定値でしかない。対策の有効性を検証するため、感染実態を公的に把握する仕組みが必要だ。性交渉による感染で若者へのまん延も危惧され、早急な対策が求められる。

 HTLV1 白血球の一種のT細胞に感染するウイルス。感染力は弱く、感染しても病気の発症は少ない。約5%の人が成人T細胞白血病(ATL)、約0.3%がHTLV1関連脊髄症(HAM)を発症する。治療法や発症予防法は確立されていない。主な感染ルートは母子感染と性交渉で、国内の感染者は80万人以上と推定される。

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