【コロナ禍の先は】藻谷浩介さん

 ◆思考停止せずに判断を

 第5波がすっかり収まった11月。地方の城下町の商店街で、修学旅行の高校生たちを見掛けた。彼らの、一生に一度の機会が奪われなかったことにほっとする。

 「もし〇〇したら(たとえば「感染したら」)、誰が責任を取る?」というのは、世を破壊する最凶ワードだ。そもそも「責任者」が、責任の範囲で責任を取ればいいのである。「開催する責任」だけでなく、修学旅行や体育祭、学園祭などを「中止する責任」も同じだ。

 若者の持つ「教育を受ける権利」を侵害しても責任が問われず、開催して何かあるときだけ責任が問われるというのは、不公平だろう。

 今年も秋祭りが各地で中止されているが、例えばプロ野球日本シリーズや都市対抗野球は開催できている。責任者が責任の範囲を示して、その中できちんと対応しているからだ。感情むき出しで理屈の通じないクレーマーにまで取り合うことは、責任の範囲外である。学校や近所の行事でも、同じはずだ。

 これまでに10代の日本人17万人以上が新型コロナに感染したが、24日現在、亡くなったのは3人。これに対し、10代の癌(がん)による昨年の死者数は193人、同じく自殺者数は761人。自殺者の中には、学校でのいわゆる「いじめ」(実態としては暴行、強要、脅迫、傷害などの刑法犯罪)に苦しんだ末、死を選んだ例も多数あるだろう。

 本来責任を問われるべきなのは、生徒のコロナへの感染なのか、学校での犯罪の横行なのか。後者の方が最優先事項だと分からない教育現場、分からない社会というのは、それ自体が病んでいるのではないだろうか。

    ◆   ◆ 

 新型コロナウイルスの活動は終わっていないと考えるべきだ。ワクチン接種が進み、一時、新規陽性判明者数がゼロになっていた地域、例えば英領のマン島やジブラルタルでも、その後に感染が再拡大した例がある。日本よりもきちんと水際作戦を実行してきたはずのニュージーランドや韓国、オーストラリア、シンガポールでも、秋以降に感染が拡大し始めた。

 世界の主要地域でゼロコロナを続けているのは、台湾と中国である。だが感染が少ないということは、それだけ免疫が行き渡っていないということなので、一度、市中感染の拡大を招くと、かえって対処が難しくなる。

 来年にかけての世界経済の最大のリスクは、中国がウイルス制圧を続けられなくなる可能性とみる。

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 日本では、年末年始、5月、8月に感染拡大の山が来た。これは世界全体の動きとぴったり一致している。つまり、行動自粛だとかお盆だとかの、国内限定の要因で、ウイルスの消長が起きていると考えるのは、早計ではないか。昨年の経験に基づけば、年末年始に新規感染が増えてきておかしくない。

 しかし慌てる必要はない。ワクチン接種で、生命の危険は大きく下がる。60代以上への優先接種と同時に進展した第5波を、ワクチン接種前の第4波と比べると、新規陽性判明者数は2・7倍だったが、死者数は半分強に減った(新規陽性判明者数、死者数それぞれの、ピーク日の前後3カ月間を合計した数字を比較)。死亡率を試算すると、第5波は0・3%程度と、第4波の5分の1になった。

 換気不足の室内での会食は慎むとして、換気されている店や宿泊施設に出かけて楽しみ、経済を回すことは、問題ないと考える。そろそろ、思考停止して「空気」に従う習慣の刷新が必要だ。「事実と数字」を見て冷静に判断する「新しい思考様式」は普及しないものだろうか。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

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