「小倉に恩返し」うどん店主は工藤会系元組幹部 商店街に支えられ開店4年半

 「いらっしゃい!」。JR小倉駅(北九州市小倉北区)そばの商店街「京町銀天街」にある小さなうどん店に、威勢の良い声が響く。調理場からニット帽姿で顔をのぞかせた中本隆さん(55)は、同市を拠点とする国内唯一の特定危険指定暴力団工藤会の元組幹部だ。開店して4年半。当初、商店街の店主たちの間には不安もあったが、中本さんが頭を下げて回り、地域の活動に汗を流すうちに受け入れられた。「感謝」の思いを胸に、店に立ち続けている。

 中本さんは小倉の出身。幼い頃、共働きで帰りが遅い両親に代わって、近所の組員が食事などの面倒をみてくれたこともあった。「ヤクザは身近な存在で、子どもの頃から憧れていた」。20歳の頃には工藤会と関係の深い企業に出入りし、30歳で傘下組織の組員に。事務所の雑用や組長の秘書などをこなし、数年で組幹部にのし上がった。

 ただ、40代半ばとなった2010年ごろから市民にやいばを向ける組織に疑問を抱き始めた。飲食店関係者や看護師らが襲撃された事件で組幹部らが相次いで逮捕された。「カタギ(一般市民)に迷惑を掛けないのがヤクザのルール。なぜカタギを襲うのか」と悩んだ。

 自身もその頃、恐喝未遂容疑などで逮捕、起訴された。検事からの取り調べを受ける中、離脱に気持ちが傾き、勾留中の15年、離脱届を組に出した。

 約1年半の服役後、就職先を探した。地元の企業の面接を受けても、ことごとく断られた。暴力団排除条例に盛り込まれている「元暴5年条項」で、暴力団離脱後も5年間は銀行口座を開設することができない。住まい、公共料金、携帯電話の契約など「普通」の生活にも苦しんだ。

 「これまでやってきたことを振り返れば、不平不満を言える立場ではない」と受け入れた。そして、「小さい頃から食べていたうどんなら作れるのでは」と一念発起し、常連だったうどん店に頼み込んで一からうどん作りを教わった。旧知のビルオーナーが「応援しちゃる」と手を差し伸べ、商店街のテナントを紹介してくれた。

 17年6月にうどん店「元祖京家」をオープン。京町銀天街では01年、競売に掛けられた組事務所を落札した商店街関係者の店に、組員が車で突っ込む事件が起きていた。周囲からは「店に組員が出入りしないか」と、不安の声が上がった。

 中本さんは店舗を回り、頭を下げ続けた。小倉城を竹灯籠でライトアップするイベントでは、実行委員として期間中はほぼ毎日、現場で作業をした。商店街の組合幹部は「更生したい気持ちが伝わってきたので商店街の一員として迎え入れた」と振り返る。

 店で提供するうどんの麺は、たっぷりと練り込んだヨモギの香りが特徴。「だしが濃く、とがった味」とも言われたが、最近はマイルドで優しい味になったと評判だ。「自分は運良く、周りの支えに恵まれた。感謝の気持ちで小倉に恩返ししたいんよ」と笑った。

 (上田泰成)

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