CMキャラ、デザインの16歳 「行き当たりばったりが楽しい」 

学びのエンジン(6)

 車窓を流れる風景の中に自動車部品などを組み合わせたキャラクターが次々と登場する。そんなテレビCMが昨年11月から長崎県内で流れている。キャラのデザインを手掛けたのは通信制のN高1年橋本穰(ゆたか)さん(16)=長崎市。動画を視聴してリポートを提出する授業のほとんどを後回しにして、納期に間に合わせた。

 仕事が舞い込むきっかけは、父を通じて頼まれた商店街を描いたイラストだった。商店やビルの壁面に木々が生い茂り、空には飛行船と鳥が飛んでいる。訪れた人が楽しく過ごす未来像をペンで紙に表現した。この作品が会員制交流サイト(SNS)で拡散され、CMの依頼につながった。

 CMのキャラは、事前に撮影された街並みや林を見ながら想像を膨らませて13体を考案した。「現実にある題材に空想を組み合わせるのは、最も得意な描き方」。動画にするため、微妙な変化をつけながら、計千枚を描き上げた。

 電車や踏切の絵を描いている2歳の頃の記憶がある。小学1年で特に気に入ったのが、三角形の上端が空に伸びていくかのような姿が美しいパリのエッフェル塔。インターネットで写真を見ながら何度も描写し、鉄骨の数や形まで覚えた。

 小学校の休み時間には自由帳に絵を描き、友人にも手ほどきした。絵画展で入賞の常連となり、税に関する絵はがきコンクールで県の最優秀賞に輝く。学級旗のデザインも任された。

 中学では美術部に入る。3年の先輩から話を聞くのが楽しかった。画材、漫画、政治…。あらゆるジャンルの話題が魅力的だった。その先輩が引退すると、「学校での唯一の楽しみ」が消えてしまった。

 もともと、他人に合わせた言動が求められる集団生活は苦手。学校に行く意味を見いだせず、2年の頃から学校に足が向かなくなった。勉強は自宅やカフェでする方がはかどった。

 不登校の子どもを受け入れる市の学級に通うようになっても、集団生活への違和感は変わらなかった。みんなが公園で鬼ごっこをしている間、ベンチに座って橋と川を描いた。

 教員から「目標は」と尋ねられた。勉強やスポーツ、芸術の目標を定め、努力し、達成すれば次の目標を決める-。そんなサイクルが人を成長させるという教育理念は否定しない。でも、「自分にはもっと面白いやり方がある」と考えた。

 あらゆる可能性を視野に入れ、目標を探す方がわくわくする。目標だけを見据えて突き進めば、途中で見つけた別の選択肢は除外することになってしまう、と思う。

 非日常を体験する中で何かがつかめるのではないか。親に頼んで海に連れていってもらい、服を着たまま飛び込んだ。岩の上でギターを弾き、町の光が届かない場所で星空に包まれた。

 3年の秋、市中心街のアーケードに「ストリートピアノ」が設置されたことをニュースで知る。5歳から電子オルガンを習っていた。現地で弾いてみると、立ち止まった通行人が拍手や笑顔をくれた。それが楽しく、週3、4回通ううちに連弾する仲間ができた。「こういう接点の作り方があるんだ」。人間関係が一気に広がった気がした。

 中学卒業時、市の学級に通う後輩にメッセージを伝える機会があった。自らは集団生活が苦手だが、ピアノを通じ、活躍できる場を見つけたことを紹介し、こうアドバイスした。「決して枠にとらわれず、自分のしたいことを見つけて頑張ってください」

 高1の秋、1人で1週間、東京を旅した。

 カフェに入ると、座面と背もたれの間に荷物を置けるいすに目が留まった。レストランでは、ロボットが客にぶつからないよう配膳していた。スマートフォンの販売店は、木の机の引き出しがレジになっていた。

 初めて目にするものばかりだった。見ようと思って訪れたのではなく、偶然がもたらしてくれた刺激だった。そんな旅のような連続が、自身の人生だと思っている。

 「行き当たりばったりが楽しい」。あらゆる可能性を見逃さないよう、五感を研ぎ澄ます。

 (編集委員・四宮淳平)

通信制高生徒 全国で21万人

 文部科学省の2021年度学校基本調査によると、通信制過程のある高校は全国に260校あり、生徒数は計21万8389人。学校数、生徒数ともに11年度の210校、計18万8251人から増えた。全日制・定時制の高校は21年度、全国に4856校あり、300万8172人が通っている。

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