【幸福を実感する社会】松田美幸さん

将来世代と共に実現を 

 昨年は、日本の「ウェルビーイング元年」だった。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的にも良い状態のことで、広義の幸福を意味する。政府は「成長戦略実行計画2021」で、『国民がウェルビーイングを実感できる社会の実現』を掲げた。

 ウェルビーイングには、国内総生産や健康寿命のような客観的な指標と、幸福度や生活満足度のように各自の感じ方による主観的な指標の2側面がある。国際的な比較では、日本は客観的指標は高いのに、主観的な幸福度の点数はずっと低迷している。

 福岡市で開催された「都心再生サミット2021」では、産官の間で、まちづくりにウェルビーイングの発想を取り入れる議論が交わされた。企業では、従業員だけでなく、顧客や社会のウェルビーイングを意識した事業展開への取り組みが始まっている。

 働く人のウェルビーイングは、創造性、生産性、欠勤率、離職率など業績に影響する要素があり、経営の重要なテーマになる。新型コロナウイルス禍の影響で、企業・団体が、従業員のメンタルヘルス対応や働き方の選択肢拡大に取り組まざるを得ない状況も後押ししたようだ。

 だが、こうした健康経営の延長にとどまらず、社会全体で取り組まなければ、ウェルビーイングは実現されない。

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 予防医学研究者の石川善樹氏によると、主観的なウェルビーイングに最も影響があるのは、人生の選択肢と自己決定とされる。そして、多様な選択肢や自己決定に対する社会の寛容度の低さが、日本人の主観的な幸福度の低さに影響していると説く。

 経済産業研究所のプロジェクトで、日本人2万人を対象にした「幸福感と自己決定」の研究でも、所得や学歴より、自己決定が幸福度を上げると報告されている。

 良い学校から良い会社に進み、協調することが幸せへの道-。小さい頃から刷り込まれてきた、単線志向の価値観は、高度経済成長に貢献する一方で、多様性の尊重や自己決定の機会を阻んできた。

 また、義務教育は、学校に通えば進級・卒業できる履修主義と年齢主義が原則とされている。教育効果への評価がある一方で、過度の同調性や画一性の弊害も指摘されている。学校が苦手とか、並外れた才能を持つ子どもたちは、行き場を失いがちだ。

 近年、小中高校生の自殺者が増加し、その原因として精神疾患やうつ病の影響が増えているという事態も深刻だ。

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 昨年末に閣議決定された「こども家庭庁」の基本方針に、全てのこどもの健やかな成長、ウェルビーイングの向上が基本理念として盛り込まれ、「自己肯定感や自己有用感を高め、幸せな状態で成長し、社会で活躍していけるように」と記された。だが、受け皿となる社会や働く場は準備が十分だろうか。

 今年の新成人を含め1996年以降生まれは、ゼット(Z)世代と称される。この世代が日本の労働人口に占める割合は、今後急増する。

 昨年、多世代が働く日本の職場のウェルビーイングについて調査する機会があり、仕事を通じた生きがいを感じる要素を世代別に分析した。Z世代は、働く場でも、自分らしさの尊重、人間味ある関係、自身の存在意義を求めていることが顕著だった。

 先輩世代とは異なり、個々人の生き方や多様性を大切にする世代なのだ。彼らZ世代の特性を生かすことは、多様性に寛容な社会を築くチャンスになるはずだ。まちづくりも、人とのつながりのデザインや市政運営に、子どもや若者の意見を取り入れ、多世代が幸せを実感できる九州をめざしてほしい。

 

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士。福岡県男女共同参画センター長、同県福津市副市長など歴任。日本DX(デジタルトランスフォーメーション)推進協アドバイザー。カナダのバンクーバー在住。

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