日本経済の再生 会社の目的を問い直そう

 「新しい資本主義」を掲げて就任した岸田文雄首相の真価が問われる新年が始まった。経済の立て直しと国民生活の向上に全力を注ぎ、ぜひ結果を出してもらいたい。

 日本経済は1990年代初めのバブル崩壊以降、低迷が続いている。政府の旗振りで経済界もグリーンやデジタルといった成長分野にようやく力を入れ始めたが、欧米や中国との厳しい競争が待ち受ける。

 どうすれば「失われた30年」を脱し、日本経済を再生できるか。主役である企業のあり方を中心に考えてみたい。

■注目集める「年輪経営」

 中央アルプスと南アルプスに挟まれた長野県伊那市に、独自の経営理念とその実践で注目される中小企業がある。伊那食品工業、通称「伊那食」。従業員約550人の寒天メーカーだ。

 年輪を刻む樹木のように毎年少しずつ堅実に成長する「年輪経営」を理念とする。その言葉通り58年の創業以来、新型コロナ禍に見舞われるまで増収増益をほぼ続けてきた。

 元社長で最高顧問の塚越寛さん(84)は言う。「会社の目的は社員を幸せにし、社会に貢献すること。そのために会社を成長させ永続させるのが経営者の務め」。目先の利益を追う昨今の風潮には首をかしげる。

 リストラで人員削減したり、給与を抑制したりして利益を捻出する経営では、企業の業績は改善できても、社員は決して幸せにならないからだ。

 伊那食は年功序列、終身雇用を基本に据え、業績にかかわらず賃上げを続けてきた。社員の給与は60歳まで上がり、その額を65歳の定年まで維持する。今や時代遅れとされる「日本型雇用」である。

 これを貫くため研究開発に力を入れ、事業の裾野を広げてきた。「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という二宮尊徳の教えの実践という。

 「人件費はコストではなく企業の目的そのもの。社員は家族と同じで、社員の幸せの総和が企業の価値」との理念に揺るぎはない。会社が嫌で辞めた社員がいないのが誇りだ。

■社員や取引先を大切に

 社員の幸せを中心にする経営に関心を示し、伊那食を訪れる経済人は後を絶たない。黒田東彦日銀総裁も含まれるという。

 別格なのは、塚越さんと10回近く会ったトヨタ自動車の豊田章男社長だ。愛知県の本社や東京本社に塚越さんを招いて話を聞き、労使交渉の場で「年輪経営」を口にしたこともある。

 日本最大の企業のトップが伊那食の経営に共感したのは、リーマン・ショックによる赤字転落を経て、裾野の広い自動車産業は少しずつ着実に成長することが欠かせないと実感したからに違いなかろう。

 自動車産業は100年に一度の大変革を迎えている。電気自動車(EV)シフトなどの課題に際し、豊田社長は自動車産業に携わる550万人のことをよく口にする。社員や取引先を大切にしなければならないのは自動車産業に限らないはずだ。

 この30年、日本の平均賃金が伸び悩んだのに対し、利益剰余金として企業の手元に残る内部留保は3・6倍の484兆円に達した。企業の手元にある現預金は20年間で100兆円以上積み上がった。人件費をコストとして抑え込んだ結果だろう。

 経営の世界では今、能力主義や成果主義がもてはやされる。本来は、社員に報いて労働意欲や生産性を高めるものであるはずで、人件費を削るために導入するのは本末転倒である。

 伊那食の社是は「いい会社をつくりましょう」。目指すのは社員、取引先、地域に幸せを広げ、ステークホルダー(利害関係者)から「いい会社」と言われることだ。

 全ての会社が、目指す目的を問い直すことから始めたい。

関連記事

PR

PR