「3人が自白。1人否認しても別に」元主任検事の述懐 #捜査員を訪ねて②

検証「大崎事件」 

 玄関で呼び鈴を押すと、庭から男性が現れた。来意を告げ、名刺を渡す。表情が一変した。「結構です。ノーコメント」。だが簡単には引き下がれない。94歳の原口アヤ子さんにとって最後の訴えであること、有罪になった2人が自殺したことを懸命に伝えた。すると「何が聞きたいんね」と表情がわずかに緩んだ。

 元主任検事は、九州中部の故郷の港町で暮らしていた。事件当時は鹿児島地検の勤務で31歳。アヤ子さんと夫ら親族3人を捜査、起訴し公判も担当した。

 「捜査に最善を尽くし、起訴した。それしか言いようがないですよ」。大崎事件では過去、3度も再審開始決定が出ている。その点を聞いた。「再審請求されたと初めて聞いたとき、何でやと思った。とても意外でした」と返した。

 アヤ子さんらを有罪とした証拠の決め手は、夫と上の義弟、おいの3人が殺人や死体遺棄を認めた自白だ。だが、自白には無視できない食い違いがあり、捜査の進展に合わせて変遷を重ねながら整合していた。当初の「2人による犯行」が「3人犯行」を経て、最終的に「アヤ子さんを加えた4人の犯行」に。犯行を持ち掛けた主犯や、殺害方法などの根幹部分も揺れ動いていた。

 その一覧表を掲載した新聞記事を手渡すと、元検事は食い入るように読み始めた。「でもね、アヤ子さんの夫も、義弟も裁判で全部認めているわな」。その通りだ。親族3人は一審の有罪判決に控訴せず、服役した。他方、3人には知的障害があった。夫と義弟の公判供述が曖昧なため、鹿児島地裁は捜査段階の供述調書を証拠採用し、有罪の大きな柱とした。

 知的障害者は他人に迎合しやすい「供述弱者」とされ、今は取り調べを録音・録画して供述の任意性を担保するなど、自白の強制や誘導にならないよう配慮が求められている。その点を尋ねた。「当時はそういう設備も考えもなかったのでは」。障害者への配慮の認識が当時、あなたにあったのかと突っ込むと「そこはノーコメント。最善を尽くしたとしか言いようがないね」とかわした。

   ◇    ◇ 

 捜査への疑問や不審点を次々にぶつけた。答えは「記憶にない」「覚えていない」。40年以上も昔の事件。記憶が薄れるのは当然だろう。

 一方で、取材中「再審請求は意外だった」と何度も口にした。理由を問うと、「大崎事件には普通の殺人事件という認識しかなかった。当時、年間100件を超える事件をやっていたから、数ある事件の一つという認識だった」。こうも言った。「率直に言えば3人が認めている。1人が否認しても別にと…」。後は言葉をのんだ。

 この一言に、弁護団から聞いた固定観念の話を思い出した。「3人も自白しているのに、殺していないはずがない。それが大崎事件の捜査と裁判を誤らせた固定観念だった」と。

 突然の訪問にもかかわらず、元検事は記憶を探りながら誠実に答えてくれた。結局、玄関先での取材は2時間近くに及んだ。

 次回は弁護団が主張する、確定判決とは異なる「アナザーストーリー」をテーマに話を進める。

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