未曽有の干ばつ、米最大の農業拠点の悲鳴 収穫減、輸出に影響も

 近年の異常気象を受け、米西部カリフォルニア州がかつてない干ばつ被害に苦しんでいる。昨秋には州の9割近くが深刻な干ばつとなり、水不足や猛烈な熱波、山火事に見舞われた。国内野菜の3分の1、果物の3分の2を生産する米最大の農業拠点で何が起きているのか。 (カリフォルニア州で、金子渡)

 「農業用水の供給がストップし、収穫は前年から半減した。これまでで最悪の1年だった」。州の中央に位置するセントラルバレー。約半世紀にわたってトマトを栽培してきたゲイリー・ビーン(75)は深いため息をついた。

 米気象当局によると、カリフォルニアは昨年10月、5段階中最も深刻な「異常な干ばつ」に45・6%、2番目にひどい「極度の干ばつ」に41・5%の地域が見舞われた。

 水不足の悪化を受け、州は農業用水の削減と地下水のくみ上げを制限。当初、ビーンの地域では契約供給量の10%が割り当てられる予定だったが、結局、供給されなかった。

 セントラルバレーの農家は主な水源を山間部に降り積もる雪に頼ってきた。だが、近年の温暖化で降雪量は年々減少。特に昨年は春に気温が一気に上昇したことで雪どけ水が貯水池や地下に浸透せず、そのまま海に流失したという。ビーンは「全ての貯水池は空か、水位が下がっている。今年は作付けを半減して乗り切るしかない」とぼやく。

 農家をさらに苦しめるのが水の供給配分の変化だ。過去50年で州の人口は約2千万人増加。都市用水の使用量が大幅に増える一方、農家に割り当てられる農業用水は減り続ける。

 「このままの状況が続けば、セントラルバレーでは50万エーカー(約2020平方キロ)の農地が放棄されることになるだろう」。カリフォルニア農業用水連合事務局長のマイク・ウェイド(60)は警告する。「州の農作物の44%が海外に輸出されており、世界中に影響が及ぶ恐れがある」

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 世界シェアの8割を占めるアーモンドにも影響は出ている。雨期と乾期がはっきりと分かれる地中海性気候のカリフォルニアはアーモンドの生産に適しており、年々生産を拡大してきた。しかし、昨年は水不足と記録的な猛暑が直撃。農務省は2021年の収穫予測を当初の32億ポンド(約14億5千万キロ)から、10%減の28億ポンド(約12億7千万キロ)に下方修正した。

 セントラルバレーの町セレスで20年以上、アーモンドを育ててきたクリスティン・ジェムパール(50)も、干ばつと給水制限のため十分な水を確保できなかった。「水を購入しようにも高すぎて無理だった」

 アーモンドは一度植えると、25~30年間は地中で育ち続けるが、成長して収益を上げるまでに7年程度かかる。ピンチをチャンスに変えようと、ジェムパールは昨秋、所有するアーモンド園の3分の1の面積から寿命が近づいていた全ての木を引き抜き、新たなアーモンドの苗木を植えると決めた。当面、利益は出ないが「干ばつは今後も続くかもしれない。水が節約できるし、何より将来的な投資を最優先した」と期待をかける。

 70億ドル(約8018億円)の市場規模を持ち、州内で最も収益率が高いアーモンド栽培を守ろうと、約7600の生産者・加工業者を代表するカリフォルニア・アーモンド協会は節水に力を入れる。新たなかんがい技術を導入し、既に1ポンド(約450グラム)の栽培当たり30%超の水削減に成功した。25年までにさらに20%の削減を目指す。

 協会長兼最高経営責任者のリチャード・ウェイコット(68)は「木に必要な水量を衛星や地上から正確に感知し、効率よく供給することができるようになった。大きな進歩だ」と胸を張る。

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 ワインの生産地として世界的に有名なナパ・バレー。ワイン農家にとって目下の悩みは山火事だ。山の中腹にあるワイナリー「ロング・メドウ・ランチ」の近くでは17年と20年に大規模火災が発生。周辺の木々を撤去して防火帯を作ったおかげで延焼は免れたが、ブドウの皮に煙のにおいが付着する被害が出た。

 「昔から山火事はあったが、10~15年に1回程度だった。最近は毎年発生し、しかも燃える期間が長くなっている」。ワイナリーで働くブラッド・グローパー(58)は不安を隠さない。

 ワイナリーではこの10年で、ブドウの芽吹きや収穫時期が早くなっているという。社長のテッド・ホール(73)は「原因はよく分からないが、とても心配している」と表情を曇らせた。

 洞窟を掘って建設したワイナリーは夏も涼しく、ワインの管理に適している。1971年の創業以来、有機農法を導入し「地球に優しい持続可能な農業を心掛けてきた」というホールは訴える。「人間が気候に影響を与えたのは間違いない。だからこそ、エネルギーの使用量を減らし、大気への炭素排出量を減らすような方法をとらなければならない」 (文中敬称略)

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