「恥じることは何もない」取調官は振り返った #捜査員を訪ねて④

検証「大崎事件」 

 鹿児島県警捜査1課の元巡査部長は連載1回目にも登場した。事件当時40歳。現役を退き20年以上になるが、朴訥(ぼくとつ)とした話し方や穏やかな表情に、人情派刑事の雰囲気を残していた。

 この人にはぜひ会いたかった。彼が取り調べに関わった原口アヤ子さん(94)と義妹の供述調書には、他の証拠と合致する真実が記録されていると思えたからだ。昨年11月、晩秋の陽光が差し込む車庫で約1時間、取材に応じてくれた。

 取調室でのアヤ子さんの印象を聞いた。評価は厳しかった。「ずっと否認よ。何を聞いても『知らん』『言いたくない』の一点張り」「気性の激しい人で、私はなだめ役。(共犯とされた)親族もなかなか逆らえなかったと思うよ」

 確かにアヤ子さんは否認を貫いた。だが、自らの潔白をきちんと訴えた調書が残る。確定判決は「アヤ子は事件当夜、義弟宅を訪ね被害者殺害を持ちかけた」と認定したが、アヤ子さんは「事件当夜は義弟宅に行っていない。行ったのはその翌朝。結婚式の着替えが入った紙袋を持って行った」と主張した。

 それを説明すると、元捜査員は逆質問をしてきた。「彼女が犯人だと思ったことはないの? 義弟やおいは『アヤ子の指示でやった』と自白しているよ」。知的障害がある親族3人の自白の信用性は、大崎事件の再審請求の歴史で3回も裁判所に否定されている。その点を指摘すると「そこが問題になっているわけよね」と表情を緩めた。

   ◇    ◇

 尋ねたいことは山ほどあった。今回の第4次再審請求で、弁護団が医学鑑定を根拠に「被害者は側溝転落の影響で死亡した」と主張する点をどう受け止めるか。その転落事故を警察はきちんと調べたのか。

 そのとき、元捜査員は記者の手元を見て「これ何ね?」と問い掛けてきた。質問事項を忘れないよう走り書きしたメモ紙だと伝えた。「緻密に調べているねぇ。感心した」と笑顔を見せた。硬軟交えた受け答えと、絶妙の間合い。「取材の急所」を巧みに外されているように感じた。

 それでも、次の点は外せない。大崎事件の一連の取り調べで、強制や誘導があったのか否か-。服役中からアヤ子さんの夫と義弟、おいが「自白を強制された」と主張。2002年、鹿児島地裁による初の再審開始決定につながった。

 高検は翌03年、事件当時の捜査員たちから事情を聴いた。アヤ子さんも記者会見で「(取調官が)机をたたき『くそばばぁが意地を張りやがって』とののしられた。恨みは消えない」と述べていた。

 元捜査員は「私も宮崎の高検支部に呼び出された。調べに強制も誘導もない。恥じることは何もないと説明した」と振り返った。

 前記のように、彼はアヤ子さんの義妹の取り調べも担当した。次回はそこに話を進める。

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