「もしもしクスノキさん 学生生活の悩み聞いて」 大木そばに謎の黒電話 九大大橋キャンパス

 九州大大橋キャンパス(福岡市南区)を見守る大きなクスノキのそばに、黒電話が置かれる日がある。指定の番号をダイヤルすると男性の声が応じ、目の前の大木と話しているような感覚に包み込まれる。新型コロナウイルス禍で思い描いていた大学生活を送ることができない学生たちは、本音や悩みを漏らす。「クスノキさん、実はね…」

 黒電話の仕掛け人は、芸術工学部4年の南井勇輝さん(22)。東京高専を卒業後、2020年4月に同学部3年に編入した。感染拡大期と重なり、授業はオンラインのみでサークル活動も制限され、大学に行くことすらない日々。知人もいない福岡で孤独が募った。

 「みんなストレスやもやもやを抱えているはず。どうすれば発散できるのか」。そんなとき、人もまばらな構内で枝葉を広げるクスノキが目に付いた。仮想現実(VR)を研究する南井さんは「木を人に変身させてみよう」と思い立つ。

 温かみのある黒電話に近距離無線通信機を内蔵し、自分の携帯電話に転送して会話することで、あたかも大木と会話をしているように感じさせる仕組みを完成させた。

 昨年4月、初めて設置。説明板に「語らいの木 悩み、相談、何でも聞いてくれます」と掲げた。時間の余裕を見つけてはこれまで7回設置し、43人が利用。「コロナ禍で友達ができにくい」「勉強がうまくいかない」「就職活動で失敗した」…。15分以上話し込んだ人もいた。

 南井さんは校舎内で「クスノキさん」として聞き役に徹した。相手の顔は見ないし、名前も聞かない。「久しぶりに大学に来て話ができてうれしい」と学生たちの声が弾んだ。

 「こんなに利用してくれるとは思わなかった」と驚く南井さん。「会員制交流サイト(SNS)では『いいね』とか相手の反応を気にして、実は本心は出しにくい。学生を見守るシンボルツリーの存在感と人の声という仕掛けが心の壁を取っ払ってくれたのかも」

 今春に大学院に進学しても「クスノキさん」は続け、福祉施設や病院で本音を吐き出せるコミュニケーション方法を研究しようと考えている。 (三笘真理子)

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