数学と書で「ゾワッとする」アート 最先端の美を追究する若き数学者

シン・フクオカ人 #67

 〈天才とは、努力を重ねた末にひらめく瞬間が訪れた人のことを言うのかもしれない〉

 それは「不思議系アート」とでも言おうか。九州大大学院を卒業し、福岡を第二の故郷とする数学者、岡本健太郎(31)=東京在住=が手掛ける作品だ。

 中央に複雑な幾何学模様の切り絵が浮かび、背景には書で描いた円や、時には竜が踊る。切り絵は、パソコンの表計算ソフト「エクセル」に数式を打ち込み、数式が書き出す図形をデザインナイフで切り取ったもの。それを透明なアクリル板に挟み、背景の上に重ねる。

 コピー用紙に印刷された図形をミリ単位で切り取る作業は、集中力との勝負だ。

 「切り抜きには半月ぐらいかかるけど、終わった時の達成感が忘れられなくて、またやってしまう」

 2016年から作品を作り始め、これまでに40点ほど完成。昨年11月には、福岡市の福岡アジア美術館で開催された美術展「躍動感謝祭」に出品して来場者の目を奪った。

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 山口県下関市出身。書道を教えていた母の影響で、0歳から筆を握らされていた。数学の魅力に目覚めたのは、大学浪人して通った北九州市の予備校だった。名物講師から出された図形の問題。解答例には数式がなく、論理だけで鮮やかに解かれていた。

 「数学って計算じゃないんだと知って、のめり込んだ」

 志望先を医学部から変更し、理学部数学科に進む。大学院で博士号を取得して卒業し、「数学の楽しさを広めたい」と大人のための数学教室を運営する「和から株式会社」(東京)の講師になった。今はひそかな数学ブーム。仕事のためというより、純粋に「数学を知りたい」「学び直したい」という人も多いという。

 エクセルで幾何学模様を描こうと考えたのは、上司から「統計学の講義で扱うエクセルを使って新しい教え方ができないか」と尋ねられた時だった。方法は知っていたので、その場で簡単な図形を描いてみると「そんな使い方ができるのか」と驚かれた。

 調べてみると、世界的にもそんな使い方は普及していなかった。そこで研究を重ねて幾何学模様の作成方法を次々に編み出し、「数学アート」の講義を開くまでになった。

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 その美しい図形を眺めているうちに、書との融合ができないかと考えた。書は「紫雲」という雅号を持つほどの腕前だ。大学院時代には自分の書を「かすれ」も含めて切り取り、空中に浮かせて影を落とす美術作品に挑んだことがある。

 「これだ!」

 初めは、丸を一筆で描く禅の書画「円相」を背景に、幾何学模様を重ねるシンプルな作品だったが、背景も模様もどんどん複雑になっていった。

 昨年11月には、作品やその描き方を解説した「アートで魅せる数学の世界」(技術評論社)という本まで出版した。好評で、今は続編に取り掛かっている。

出版した「アートで魅せる数学の世界」を手にする岡本健太郎さん

 美術の世界では、レオナルド・ダビンチ、サルバドル・ダリ、マウリッツ・エッシャーなどが数学を積極的に取り入れた人物として知られている。

 自分が数学とアートに興味を抱くのも、同じように「美しさ」を追究したいからなのではないかと思う。大学時代は体操部に所属し「身体で表現する美」を追究した。

 作品を作っている時も体操している時も、集中すると無音の世界に没入できる。でも、一番味わいたいのは「完成した瞬間のゾワッとする感覚」。次の目標は、現代の最先端の数学理論をアートにすることだ。=敬称略(加茂川雅仁)

■岡本健太郎さんは2月10~15日、福岡市博多区上川端町11の8川端中央ビル4階の「美術画廊410ギャラリー」で個展を開く。問い合わせ先=092(982)0410。

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