アサリ消えた干潟「本当は違法行為なんて…」偽装の背景に海の異変

 大量の外国産アサリが「熊本県産」に偽装されていた問題の背景の一つに、海の異変がある。最盛期には全国のアサリの4割を占める一大産地だった有明海・八代海に、当時の面影はなく、2020年の漁獲量はわずか21トン。「本当は違法行為なんてしたくない」。偽装根絶で再び生活の糧を失う漁協や漁民は、声にならない悲鳴を上げる。 (古川努、宮上良二、綾部庸介)

 「以前から、不漁でも各地で県産アサリが出回っていた」。荒尾漁協の西川幸一組合長は違和感を抱いてきた。実際、アサリの産地偽装はたびたび発覚。国や県が指導し、警察が摘発しても根絶には至らなかった。

 最近も、農林水産省が昨年12月、天草市の水産加工会社に是正を指示した。同省の資料にあった住所を尋ねると、そこは平屋のアパート。看板もない。玄関口に現れた女性は「会社はここにありますが、私は事情は知らない」。取材は、責任者の不在を理由に断られた。

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 県や漁協関係者によると、偽装の過程はこうだ。

 中国や韓国から輸入された生鮮アサリは一定期間、養殖場で育てられる。これを「蓄養」と呼ぶ。海で蓄養するには漁業権が必要で、漁民でつくる組合が請け負う。組合側は漁協に「漁場代」を支払う。ここまでは合法だ。蓄養されたアサリは業者が市場に卸す。この養殖場と市場をつなぐ業者の段階で産地がすり替わる。これが消費者の信頼を裏切る違法行為に当たる。

 食品表示法には、原産国表示を原則とする一方、2カ所以上で成育した場合は期間が長い方を原産地と表示できるルールがある。県北部の漁協の男性組合長は「アサリの生育期間は1年半。ここで1年蓄養すれば県産を名乗れるが、そのペースでは利益が出ない」と明かす。蒲島郁夫知事は、この表示ルールそのものの見直しを国に要請する。

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 「昔は、いくらでもアサリが取れた。偽装なんて必要なかった」。産地偽装の現場の一つ、県北部の漁場近く。作業中の漁協関係者は語気を強めた。「みんな食うので精いっぱい。地元の人に仕事ができて、金が落ちて回っていくのがそんなに悪いのか」

 偽装横行の背景には、貝の成育環境の悪化も影響している。県によると、県内のアサリの漁獲量の最盛期は1977年の6万5732トン。だが、近年のピークは2011年の1922トン。19年は339トン、20年には21トンに下落した。

 県内の組合長は「業界は変わるべき時に、変われなかった」と悔やむ。別の漁業関係者は問い掛ける。「気候変動の大雨で大量の淡水やヘドロが流れ込み、大型公共工事や事業所が海を汚す。私たちからアサリを奪った責任はないのか」

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