小倉織とTシャツとわたし

町田そのこ 北九州てくてく手帖【9】

 先日、思わず立ち尽くしてしまうほどうつくしく繊細な桜吹雪に遭遇した。淡い桃色が、やさしく柔く舞う。世界が鮮やかに塗り替えられていくような、夢のような光景だった。そんな景色を前に、ああこの季節、この瞬間がまた巡ってきたのだ、と何とも形容しがたい感情に襲われた。

 桜を前にするとき、わたしはいつにも増して己の無力さを感じる。季節が華やかに訪れてあっという間に去って行く、その一瞬をただ傍観するしかないことに、呆然(ぼうぜん)としてしまうのだ。そして茨木のり子さんの詩『さくら』の一節を思い返してしまう。

〈もっともっと多く見るような気がするのは 祖先の視覚もまぎれこみ重なりあい霞(かすみ)だつせいでしょう〉

 桜のうつくしさに触れるというのは、自分自身の中に息づいている亡き祖父母やご先祖の桜の記憶に...

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