平和の芽育て~ハワイの被爆2世〈上〉 【息吹】オバマ母校 宿る広島

西日本新聞

 ‐原爆投下について、どう思う?

 2年前の11月の夜、米ハワイ州ホノルル。高校2年生だった日系4世のチェイセン・ヒメダさん(18)は食卓で、原爆投下をめぐる日米の歴史観の違いについて両親と語り合った。初めてのことだった。

 話題にしたのは、日本語の授業で見た映像が心に焼き付いていたから。「原爆の破壊力は知っていたけれど、きのこ雲の下で何が起きていたのか、僕には何も分かっていなかった」

 広島、長崎への原爆投下が戦争を終結させ、日米双方の多数の命を救った‐。米国民の間で定着しているこの歴史観の中で育ったヒメダさんが、原爆投下の道義性について自ら考えるようになったきっかけ。それは、広島原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」のアニメ映画だった。

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 ホノルル空港からタクシーで15分。ヤシの木が揺れる広大な敷地にヒメダさんが通う私立プナホウ学園はある。幼稚園から高校まで約3500人が在籍。白人やポリネシア系、アジア系など人種は多様だ。

 2009年、「核なき世界」を訴えノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領も小学校5年から高校卒業まで学んだ。そこで10年ほど前から、ゲンのアニメ映画を教材にしているのが広島市出身の被爆2世、ピーターソンひろみさん(65)。1971年、米国人との結婚を機にハワイ移住。学園の高校生に日本語を教えて30年になる。

 当初、生徒が学びやすい教材がなく、同僚と独自に教科書を作ることに。日本語を学ぶためには日米の関わりを知らなければとの思いから、2004年に出版した教科書第4巻(高校2年生向け)に「日系人キャンプ」「原爆」といった戦争や平和を考えるテーマを盛り込んだ。米国には日本のような検定制度はない。

 「立場を悪くするから」と、広島の母からは学校で原爆の話は絶対せぬようくぎを刺されていた。教科書に原爆のことを書き始めたとき、母はすでに亡くなっていたが「避けては通れなかった」と振り返る。

 原爆の章は家族の被爆体験に基づく。大やけどを負った父を、母と姉が大八車に乗せて逃げる様子などを描いた。そして原爆についてより深く知ってもらいたいと、ゲンのアニメ映画を授業に取り入れた。

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 原作同様、アニメ映画もリアルな描写が被爆の実相を伝える。「それを知った上で自分なりの歴史観を持ち、日本語で日本の若者と語り合えるまでになってほしい。そこから接点を見いだすことでしか平和はつくれないのだから」

 日本語を選択しているのは中高で計約700人。高2の約100人が原爆について学ぶ前、投下の是非を尋ねると、大半が肯定するのだそうだ。しかし学んだ後は、半分が「正しくなかった」と答えたり、ヒメダさんのように疑問を抱いたりするようになるという。

 戒めを破ったことを、母もきっと許してくれると、ひろみさんは思っている。

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 はだしのゲン 広島原爆で家族を失った故中沢啓治さんの自伝的漫画。アニメ映画も中沢さんが製作、脚本を務めた。日本では最近、漫画が一部で閲覧制限されるなどしたが、プナホウ学園では教材にアニメ映画を取り入れたことを問題視されたことはない。

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 太平洋戦争で日米が開戦した地、ハワイ。オバマ氏の母校で、日本語教育を通じ「平和の芽」を育てようと奔走する被爆2世がいる。どんな思いなのだろう。ホノルルに訪ねた。 (ワシントン山崎健が担当します)

=2014/05/20日付 西日本新聞朝刊=

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