佐賀に「最強の低山」 絶景、植物、鎖場…標高516メートルに記者挑戦

 古くは修験の地として栄え、希少植物も自生する黒髪山。佐賀県武雄市と有田町にまたがる標高516メートルの山頂に続く道のりは意外に険しく、登山者には「最強の低山」と評されているとか。黒髪山岳救助協力会の元会長で、同山と周辺を巡る観光ルート「黒髪へんろ道」を整備した有田町の郷土史家吉島幹夫さん(68)の案内で、黒髪山に初挑戦した。

 出発は標高約230メートルの乳待坊公園展望台(武雄市山内町宮野)から。駐車場もあり、登山者でなくても気軽に雄大な景色が楽しめる。展望台にはへんろ道の10番札所「乳待坊大師堂」があり、山頂を経由して20番札所「閻魔(えんま)王堂」近くの一の鳥居登山口に下る行程だ。

 午前9時半に総勢6人で登山スタート。道中数カ所でへんろ道の案内板も設置しつつ、ほどよいペースで進む。札所は登山道から少し外れる場合が多く、「私が作業をする間、先に札所に行ってください」と吉島さん。先導なしで踏み跡をたどるが、まぎらわしい分岐点もあって足取りは慎重になる。

 吉島さんによれば実際に数年前、付近で若い登山者が遭難したという。「分かりにくい場所を確認することも重要。後日ここにも目印を置いておきます」。低山登山でも、危険と隣り合わせだと再認識した。

 出発から上り続けて約30分、見返峠に到着した。黒髪山頂のほか、青螺山や有田町の竜門峡にも続く山の交差点だ。道標近くには「クロカミラン植栽地」の看板もある。今回の登山では、間もなく見頃を迎える希少植物のクロカミランを見たいという思いもあったのだが、吉島さんに「申し訳ないけれど今は案内していません」と断られていた。

 原因は心ない登山者による盗採(とうさい)。今はスマートフォンの衛星利用測位システム(GPS)アプリを使って登山記録が簡単にネット上に公開できるため、気軽に紹介した写真でも撮影地が特定されて盗採の被害に遭うのだとか。実際に看板近くのクロカミランは全滅したという。遭難予防には大いに役立つアプリだが、このような悪影響を引き起こしているとは驚きだった。

 「いよいよここからが本番。まずは『三点支持』を説明します」。出発から2時間弱、吉島さんが足を止めた。いよいよ最強の低山のクライマックス、鎖場だ。目の前には壁のような岩肌がそびえ、表面には鎖と足場が打ち付けられていた。

 三点支持は両手と両足のうち3点の置き場所を鎖や岩場の上に確保し、残った手か足で先に進んでいく登山法。実際に体験したのは2分程度、ジャングルジムを楽しむのと似た感覚だろうか。同行した70代女性も難なく上れたので、高所が苦手でなければ多くの人に体験してもらいたいスポットだ。

 鎖場から約5分で頂上付近の天童岩に到着した。視界が360度開け、目に入るのは青い大空か緑の山々。この日は立春から88日目となる八十八夜でもあり、ほおをなでる風からも生命の息吹を感じられた。

 余韻に浸りながらの下り道も楽しい。「こちらの場所は一般にも公開されてます」と案内されたのは、黒髪山で1904年に発見された国天然記念物「カネコシダ」の自生地。一見すると、葉の裏側が白く正月飾りに欠かせないウラジロのようだが、裏面も表と同じ緑色をしており、先端がとがっているのが特徴。地元住民らが自生地の保全活動を続けているという。

 植物についてはひそかな発見もあった。道中、足元で愛らしく咲いていた白と紫の名も知らぬ花。帰宅後にスマートフォンのアプリで調べると、すぐにアヤメ科の「シャガ」だと判明した。改めて文明の利器とは使いようだと実感した。

 午後3時前に一の鳥居登山口に到着した。登る前、最強とは「最も手ごわい」という意味かと思っていたが、大きな勘違い。初心者から本格派までを魅了する、登山の多彩な魅力にあふれた「最強」の低山だった。 (糸山信)

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